瞬が、大衆にとって自分は一個の人間ではなく一つの玩具にすぎないのだと開き直って仕事ができるようになった頃、瞬に ある出会いがあった。 その日――真冬のある日、瞬は、某ホテルで開催される夏物の新作発表会に担ぎ出されていた。 メインはショーでなく、瞬個人へのインタビューである。――と、瞬以外のすべての人間が認識している新作発表会に。 もっとも この頃になると、さすがの瞬も その事実に薄々気付いてしまっていたが。 肌の露出の多い夏服なら瞬の性別を判断する材料が得られるのではないかと考えた者は多かったらしく、会場のホテルは、瞬が口を滑らせるのを期待した多くのマスコミ関係者であふれかえっていた。 『シュン』の売りは『謎』であり、何がその謎を解くヒントになるかはわからない。 瞬は笑っても怒っても無愛想でいても、何かをしさえすれば とにかく記事になり話題になる便利なネタだった。 インタビュアーの一人に、この人気をどう思うかと問われ、瞬は正直に、 「歌も歌えない、演技もできない、気の利いた受け答えもできない僕に、どうして皆さんがそんなに興味を持つのか、僕にはどうしてもわかりません」 と答えたのだが、 「十分、気の利いた受け答えですよ」 会場に詰めかけた者たちには、そんな素っ気ない答えさえ 大いに 彼等の反応に呆れ、思わず あらぬ方向に視線を泳がせた瞬は、そして、その時 彼に気付いたのである。 芸能リポーターやカメラマン、ファッション誌・経済誌の記者たちの集まったホールの隅に、一人の金髪の男がいた。 彼は、親の仇でも見るかのように鋭い目つきで瞬を睨んでいた。 瞬は、彼と視線が合った途端に、まるで金縛りにあったように、彼から視線を逸らせなくなってしまったのである。 それまで上機嫌とまではいかないまでも、当意即妙の受け答えをしてインタビュアーたちを喜ばせていた瞬が、突然の全身を強張らせたことに最初に気付いたのは、瞬と契約を交わしたアパレルメーカーによって瞬に付けられていたマネージャーだった。 「知り合いか」 瞬の視線の先にあるものを認め、彼が瞬に小声で尋ねてくる。 「あ……」 瞬は、見知らぬ男の視線に動きを封じられ、マネージャーに首を振ることもできなかった。 知り合いだとすると口止めが必要である。――そう、瞬のマネージャーは考えたらしい。 彼は、彼の横に控えていたスタッフの一人に、瞬を異様に緊張させている男を 記者たちの目に触れないようにしろという指示を出し、その指示は速やかに遂行された。 新作発表会を終えた瞬が控え室に戻ってきた時、そこには、なぜ自分がこんなところに連れ込まれることになったのか得心できていならしい金髪の男が、憮然とした面持ちで椅子に腰掛けていた。 |