「やはり あなたでしたか。金髪の、ちょっと強面こわもての方だと瞬が言っていたので、もしやと思っていましたが」
瞬から事前に連絡を受けていたらしい牧師は、礼拝堂の入り口に現われた氷河の姿を認めると、にこやかに微笑んで氷河の側に歩み寄ってきた。
「久し振りです。以前、一度、瞬と一緒に こちらにいらしてくださいましたね」
やわらかい物腰の初老の牧師に会釈され、氷河もまた彼に会釈を返した。

「瞬は元気でやっていますか。よほど忙しいのか、この半年 全く顔を見せてくれなくて、子供たちが寂しがっているんですよ。毎月 子供たちへの洋服は山のように送られてくるし、多額のお金も振り込まれているんですが――」
仕事の詳細を、瞬は彼に知らせていないらしい。
プライバシーをすべて企業に買い取られているような状況を知らせても、彼に心配をかけるだけだと、瞬は思ったのだろう。
見ようによっては滑稽に見えなくもない華やかな活動だけを見せている方がまだましと、瞬は考えたに違いなかった。

とはいえ、瞬の気遣いはほとんど功を奏していないようで、本来大人しく控えめなたちの瞬を知っている初老の牧師が氷河に見せる表情は、あまり明るいものではなかった。
「瞬は本当は何をしているんでしょう」
「既製服のモデル」
氷河としては、そう答えるしかない。
氷河の口調は多分にぶっきらぼうなものだったのだが、牧師は、氷河が恒常的に無愛想な男だということを知っているかのように、彼の態度に気を悪くした様子は見せなかった。

「そうではなくて、ここに戻ってくる前に――。あなたなら ご存じでしょう。あなたと一緒にここにやってきた時、あの子は、人を傷付けずに生きていく方法はないのだろうかと私に尋ね、私はイエスの教えを例に出して諭し慰めてやった。だが、私はあまり あの子の力になってやれなかったようで……」
自分が預かり世話をした子供が、おそらくは何らかの救いを求めて古巣を訪ねてきたというのに、何の希望も与えてやれなかったことを、彼はずっと悔やんでいたのかもしれない。
彼が今になってそんな昔のことを持ち出してきたのは、瞬が今また我が身に何らかの無理を強いているのではないかと案じているからのようだった。

「あの子は、無理に作ったとしか思えない笑顔を見せて、そして、あなたに肩を支えられるようにして帰っていった。私は ずっと心配していたんです」
瞬の身を気遣う人間に、だが、氷河は、何を言ってやることもできなかったのである。
氷河にできることはただ、
「俺が瞬についていますから」
と告げて、瞬の身を案じる人の懸念をほんの僅か減じてやることだけだった。






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