『子供の相手は苦手だから』と牧師に告げ、まるで施設の視察に来た児童相談所の行政職員のように、子供たちに距離を置いたところから彼等の暮らしぶりを2、3時間眺めてから、氷河が瞬のマンションに戻ったのは、その日の夕方の6時をまわった頃だった。
部屋には、てっきり帰宅は深夜になるのだろうと思っていた瞬が既に戻っていた。
氷河が玄関のドアを開けた途端、まるで誘拐犯の許から無事の帰還を果たした我が子を抱きしめる母親のように、瞬が氷河に抱きついてくる。

「氷河、氷河、氷河……!」
「ど……どうしたんだ」
瞬に突然抱きしめられてしまった子供の方は、瞬の声に涙がにじんでいるのに気付いて、面食らってしまったのである。
時刻は、小学生の門限としても早すぎる時刻。繁華街はやっと夜の顔を見せ始めた頃で、グレた中学生の真似をするにも早すぎる頃。
氷河は、瞬にそんなに心配をされるほど遅い帰宅をしたつもりはなかったのである。
だが、瞬には、それは時間の問題ではなかったらしい。

「氷河がもう戻ってきてくれないんじゃないかと心配で……。僕、一人でいるのが怖いの。氷河と離れているのが怖い」
「俺は行く当てがない」
「だけど……!」
行く当てがないということは、つまり どこにでも行くことができるということである。
せいぜい高価な服を買い与えてやることしかできない自分と、その同居人の繋がりの頼りなさが、瞬を不安にしているようだった。

「おまえが俺を追い出さない限り、俺はおまえの側にいる」
何を言っても不安を消し去れないらしい瞬を落ち着かせるために、氷河は意識して乱暴に、瞬の身に着けている服を引き剥いだ。






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