就職活動中の学生が手土産を置いて帰ると、瞬はもちろん すぐに氷河の姿を求めて邸内を捜しまわったのである。
しかし、彼の姿はどこにもなかった。
二人で過ごす約束をしていたわけではなかったが、瞬に誘われたのでもない限り滅多に外出をしない氷河が、瞬を残してどこかに出掛けるということ事態が、既に常のことではない。
これまでの氷河のそれとは違う 今日の彼の言動が、瞬をひどく不安にした。


その日、氷河が、彼の運転していない車で城戸邸に帰ってきたのは、昨夜とほぼ同じ頃。
「またデートだったの?」
瞬に問われた氷河が、昨夜と同様、今夜もどこか うんざりした態度と口調で答える。
「今日は鳥羽にある真珠博物館というところまで行ってきた。いや、行ったのは併設のショップの方か」
氷河のその返答を聞いた瞬は最初、氷河は問われたことに答えていない、と思った。
しかし、すぐに、氷河の返答はこれ以上ないほどに明確な答えだということに気付く。
そもそも氷河が氷河ひとりの考えでそんなところに赴くことなどありえないのだ。

「……一人で?」
「おまえを誘おうとしたら、客が来ていたからな」
問われたことに直截には答えず、だが、氷河は明確な答えを返してくる。
氷河は、自分が一人でなかったことを隠すつもりも弁明するつもりもないようだった。
「あの人はすぐに帰ったよ!」
「そうだったのか?」
白々しく問い返してくる氷河が憎くてたまらない。
憎くて――瞬は泣きたい気持ちになった。

「遠出をして疲れた。俺はもう休む」
半日で三重まで往復したというのなら疲れるのは当然だろう。――普通の人間なら。
しかし、氷河は、いわゆる普通の人間ではない。
普通の人間に数倍する体力を持つアテナの聖闘士である。
瞬にはそれは、彼の外出を詮索する人間を遠ざけるための方便にしか聞こえなかった。
事実そうだったのだろう。
氷河はそのまま瞬に一顧だにせず自室に退散してしまったのだから。






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