彼の国がその身に抱えている危険な火種のことを ヒョウガは知っているのだろうか――。
あまりに思いがけない出来事に ほとんど自失していたシュンが、我にかえって最初に考えたことがそれだった。
そのあとでようやく、あの三人が語っていたメスラムの孤児に関する話は事実なのだろうか――という疑念が湧いてくる。
そして、彼等の話が事実でも事実でなくても、ヒョウガが彼の幼馴染みの出自を知っているとは、シュンには思えなかった。

メスラムの国がこの地上から消えた時、ヒョウガはまだ5歳かそこいらの子供だったのだ。
だが、ヒョウガの父は、息子の親友が何者なのかを知っているはずだった。
彼こそが、シュンを敵国からこの城に連れてきた当の本人なのだから――。

まんじりともせずに自室でその夜を過ごしたシュンは、ヒョウガにすべてを知らせて今後の対応策を話し合おうと思った。
彼の幼馴染みが敵国の王子だったとしても、ヒョウガは友人への態度を変えることはないだろう――シュンはそう考えたのである。

万一ヒョウガが自分への態度を変えたとしても、それでヒョウガが自分を捕らえ処刑してくれれば、問題はすべて解決する。
メスラムの残党が王と戴こうとしている者が この世から消え去れば、彼等の陰謀は計画変更を余儀なくされ、うまくすれば そのまま頓挫してくれるかもしれないのだ。

シュンが、朝の訪れと共にすぐにヒョウガの許に向かわなかったのは、だから、我が身の保身を考えたからではなかった。
シュンが起つことを期待しているというメスラムの民の今後を憂えたからでもなく――自分のせいでこの国に厄介事を持ち込むことになってしまったことに罪悪感と気後れを感じたためだった。
独力でどうにかできることなら、ヒョウガの手を煩わせることなく、秘密裏にこの問題を解決したいと、シュンは思った。
だが、今はヒョウガの一介の侍従にすぎないシュンにできることは何ひとつなく、結局シュンはヒョウガに頼る以外の道を見い出すことができなかったのである。






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