ポテンツァの町への逃避行は気が抜けるほど順調で、故郷の町を出た半日後には、ヒョウガは無事にポテンツァの町で最も繁盛している娼館に辿り着くことができていた。
ここでも不幸な女たちはヒョウガとシュンに親切で、詳しい事情を詮索することもせず、事あるごとに二人への神の祝福を祈ってくれた。

二人に追っ手はかからなかった。
居場所を突きとめられずにいるだけなのだろうと考えて、ヒョウガは、大伯父のお膝元の町を離れても安心しきることができずにいたのだが、やがて届いた女将からの手紙で、彼は、この事態にどういう決着がついたのかを知ることができたのである。

モンテ・コルヴィノ一門の有名な放蕩者がエデッサの捕虜を誘惑して逃げたというので、モンテ・コルヴィノの町は大騒ぎになった――ということだった。
町の名を冠する聖なる一門の子弟が、よりにもよって地上の神である教皇に背いた国の捕虜――しかも男子――と駆け落ちしたのだから、それが騒ぎにならないはずがない。

モンテ・コルヴィノ枢機卿はただちにはローマに赴き、身内の不手際を教皇に謝罪した。
教皇はなぜか処分の決定に半月もの時間をかけたのだが、結局はすべてを不問に処すことに決めたらしかった。

『天使様が汚れたことで 教皇位を脅かす脅威は消え去ったわけだから、教皇も安心したんでしょうね。でも、もちろん あなたはモンテ・コルヴィノの町からは追放処分で、破門は免れることができたけど、モンテ・コルヴィノ一門としてのあなたの権利はすべて剥奪されたわよ。
よかったわね。おめでとう』
女将からの手紙は、ヒョウガの恋の成就を軽快な文章で喜んでいた。

とりあえず、自分とシュンを捕らえるための対策は講じられず、二人はモンテ・コルヴィノの町に戻りさえしなければ咎めを受けることもない――ということらしい。
あまりに事がうまく運び過ぎるような気はしたが、ヒョウガはともかく この結末に安堵したのである。
自分とシュンを引き裂くことができるのは、もはや天の神の意思以外にはないのだから、二人はいつまでも共にいることができるのだ――と。

それでも完全には落ち着かない数日を過ごし、穏やかな日々の連続に、ヒョウガが徐々に心からシュンとの生活を楽しめるようになった頃、ポテンツァの町の娼館に、今度は、モンテ・コルヴィノ枢機卿からの手紙が届けられた。






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