最後にもう一度だけ、俺があの不吉な場所に戻ったのは、そこで俺の瞬の面影を捜すためだったろう。
シュンは可愛い。
様子が可愛らしいだけでなく、その性質も善良だと思うし、不幸なまでに勘もいい。
俺は決してシュンが嫌いなわけではなく――むしろ俺は彼に ありふれたものではない好意を抱いている。
その姿が俺の瞬に似てさえいなかったなら、俺は本当に恋に落ちていたかもしれない。
だが、シュンは俺の瞬にそっくりで、だからこそ俺は彼に 俺の瞬への心と同じ心を抱くことができなかった。

彼を見ていると、俺は、自分がどれだけ瞬を求めているのかを――どんなに瞬だけを求めているのかを思い知らされるんだ。
俺が好きなのは、俺が本当に抱きしめたいのは、2年前、この場所で消えてしまった俺の瞬だけなのだと。

冥界への入り口、冥界からの脱出口があった場所。
瞬はその道を通って、こちらに来ることができなかった。
瞬は本当に死んでしまったのか――あるいは、生きたまま今でも異界をさまよっているんだろうか。
それすらもわからない俺は、どうしても瞬を思い切ってしまうことができない。
俺はおそらく一生このままなのだと、今俺の眼前にある廃墟に似た心を抱いて生きていくしかないのだと、誰からも顧みられることのない城跡を見詰めながら、俺は思った。
その時――。

「カミュ」
俺の目の前に、俺の瞬と同じ世界にいるはずの人間の姿が ふいに現われた。
もちろん、それは実体を伴わない幻影のようなもので、彼の手足の向こうには ぼんやりとハーデス城の廃墟が透けて見えている。
その彼が――この手で俺が倒し命を奪った師が――微笑んでいるような 悲しんでいるような不思議な目をして、俺に告げた。
「これ以上、黙って見ていられなくてな」

彼がその言葉を言い終わると同時に、彼の作り出す強烈な凍気が俺を襲う。
彼の凍気は、俺の肉体から、命を永らえさせるためのすべての力を奪い、俺の思考力や感情までをも奪おうとした。
「カミュ……なぜ……なぜです」
「こちらの世界にアンドロメダはいないのだ」
「瞬……が?」
カミュの告げた言葉の意味を理解する前に、俺は意識を失った。






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