若く美しい王様にさらわれて、大きく立派なお城に連れ込まれ、名前を訊かれる前に、 「あなたのように可憐な姫君には会ったことがない。姫君、ぜひ、私の妻になってください」 とプロポーズされたお姫様は、普通はどんな反応を示すものでしょうか。 ごく一般的な判断力を備えたお姫様なら――いいえ、お姫様でなくても、女の子なら誰でも――他人の意思を尊重せず、自分の希望だけを強引に押し通そうとする人と結婚しても 将来の破綻は見えていると察し、王様のプロポーズを断ることでしょう。 断らないのは、余程の面食いか王妃という地位に目が眩んでいる権勢欲旺盛な人間、非常にお金に困っている人間、他人との間に波風を起こすのを面倒がって他人の意思に流されやすい事なかれ主義者、自分の幸福を諦めている自暴自棄な人間、いくつになっても『いつか王子様が』を信じているシンデレラ・コンプレックスの人間、そして、お姫様の結婚とはそういうものだと達観している童話の世界のお姫様くらいのものです。 ――世の中の女の子の半分くらいは断らなさそうですね。 ですが、あいにく瞬は そういう種類の人間ではなく、その上、本来はお姫様ではなく、女の子ですらありませんでしたから、即座に、かつ丁重、かつ はっきりと、ハーデス王のプロポーズを辞退する旨を彼に通告しました。 「僕、男ですっ!」 と言って。 それは、男性からのプロポーズを断る理由として、これ以上明確な理由は求められないと言っていいほど完璧な拒絶の言葉でした。 ですけれど、瞬の男らしくきっぱりとした拒絶の言葉は、ハーデス王に一笑に付されてしまったのです。 「なかなか楽しい冗談を言うお姫様だ。その顔、その身体、どこから何をどう見ても、そなたは男には見えないではないか」 薄い布一枚だけで覆われている瞬の脚を見、腰を見、胸を見、最後に顔を見て、ハーデス王は自信満々で言い切りました。 呪いでお姫様にさせられてしまっている身体はともかく、瞬の顔は自前のものです。 ハーデス王の断言に、瞬は結構傷付きました。 せめてハーデス王が巨乳好きだったなら、瞬は解放されていたかもしれませんが、残念ながらハーデス王はそういう趣味の持ち主でもないようでした。 「僕は ほんとに男なんですっ!」 瞬の必死の訴えも空しく、すっかりその気になったハーデス王は、彼の家来たちに結婚式の準備を命じ、瞬の目の前で国中におふれを出す手配やら、式の列席者を選ぶ段取りやらを てきぱきと決めていきます。 その仕事の早いこと早いこと。 瞬があっけにとられている間に、ハーデス王の結婚式は明日朝いちばんに、王宮の大広間で、国中の貴族と少将以上の武官たち列席のもとに執り行なわれることが決定してしまったのでした。 |