瞬の心に不安と不穏を生んでも、それでも旅は続けられなければなりませんでした。 瞬が男の子に戻った方がいいのか女の子のままでいた方がいいのかという問題はさておいて、他の四人は人間の姿に戻ることを切望していましたから。 ただハーデス王のことがあってから、瞬が見晴らしのいい草原に一人取り残されることはなくなりました。 視界を遮るもののない平地は 近付く敵を見付けやすい場所ではありますが、それは裏をかえせば、敵に見付かりやすい場所でもあるということです。 危害を加えようとする者に反撃する力を持たない今の瞬には、そこはとても危険な場所だということを、瞬の仲間たちは知ったのです。 ですから、それ以降、氷河たちが食料調達に出ている間、瞬は主に険しい山の岩場や大きな木の陰で、仲間たちの帰りを待つことになりました。 ところが。 そうなればそうなったで、山の暮らしに慣れた山賊たちが、瞬を見付け瞬をさらっていくのは、いったいどういうわけなのでしょう。 木の陰に隠れて一部始終を見ていたウリ坊に、瞬誘拐の様子を聞いた星矢は、思わず頭を抱えてしまったのです。 「瞬ってさ、 「 笑えない冗談を言う紫龍を、氷河がじろりと据わりきった目で睨みます(現在は鳥目です)。 氷河の鳥目ごときには たじろぎもせず、星矢はぼそりと呟きました。 「でも、薄い布一枚を身体に巻いてるだけの あの格好だし、男共がむらむらしても仕方ないかもな」 星矢がそんなことを あっけらかんと言ってしまえるのは、彼自身は瞬にむらむらすることはないからだったでしょう。 ですが、瞬をさらっていった山賊たちも星矢と同じとは限りません。 その可能性は、むしろ限りなくゼロに近いものでした。 ウリ坊の話によると、瞬をさらっていった山賊たちは4人。 いずれもムサい中年男ということでした。 社会の枠組みから外れたところで生きている彼等が、ハーデス王のように婚姻の誓いによる権利の獲得を望むことは考えられません。 となれば、瞬の貞操は現在進行形で危機に瀕しているということになります。 瞬が山賊たちにさらわれていった岩場から、氷河は、打ち上げ花火もかくやの勢いで空に向かって舞いあがりました。 |
■ウリ坊:イノシシの子供のことです |