緊迫した空気の中、ついに始まってしまった『第一回 アテナの聖闘士による 大にらめっこ大会』。
出場選手である聖闘士たちには意想外の規模の大会となったが、それで大番狂わせが頻発することはなく、試合は存外順調に消化されていった。

星矢は、初戦で当たった魔鈴に見せられた おやつを つい嬉しがってしまい、1回戦敗退。
一輝は、リングに上がるなり いつもの癖で『フッ』を飛ばしてしまったため、星矢同様、1回戦敗退。
紫龍は真面目に3回戦まで勝ちあがったのだが、3回戦で、老人に戻った彼の師匠の姿を10秒ほど見詰めたのち大爆笑。惜しくも準々決勝進出を逃すことになった。

ちなみに、白銀聖闘士は、そのほとんどが緒戦で破れ去ることになった。
人の心が読めるのが強みなのではないかと思われたアステリオンは、人の心を読めることが災いし、対戦相手が敵を笑わせるための作ろうとしていた表情を先読みして爆笑。1回戦敗退。
ただ二人2回戦に進出し白銀聖闘士同士で対戦することになった魔鈴とシャイナは、仮面のせいでどちらも笑わないまま1時間が経過した時点で、勝負無効となった。

結局、大方の予想通り、『アテナの聖闘士による 大にらめっこ大会』の勝利は次々に黄金聖闘士たちの手に落ちていったのである。
が、すべての試合が波乱なしで順当に進んだわけではない。
準々決勝進出者が全員出揃ったところで、何とその8人の中に、6人の黄金聖闘士に混じって2人の青銅聖闘士がいたのである。
つまり、氷河と瞬が。

2人は、昨夜のことが気掛かりで、心ここにあらず、ほとんど対戦相手を無視する形で勝ち残っていた。
氷河と瞬は、そのまま準々決勝でも勝利を収め、準決勝に進出する。

準決勝の組み合わせは、参加者の中で最もクールとは程遠く、これまでの勝利が奇跡としか思われない水瓶座アクエリアスのカミュと氷河の師弟対決。
瞬の対戦相手は、バラを口にくわえたままで、『にらめっこしましょ、あっぷっぷ』を言ってのける神業で勝ち残ってきたアフロディーテ。
つまり、『第一回 アテナの聖闘士による 大にらめっこ大会』準決勝は、奇しくも、かつての十二宮戦を再現する戦いとなったのである。

凍気使い同士の戦いは、カミュの自爆によって、あっさりと氷河が勝利を収めることになった。
水瓶座アクエリアスのカミュは、この師弟対決において、当然氷河は例の踊りで笑いを取りにくる――と踏んでいた。
ゆえに彼は、氷河のダンスを見ても笑わないためのイメージトレーニングを積んで勝負に臨んだのだが、そのトレーニングは、むしろカミュには不利に作用してしまったのである。

敗退後のインタビューに、カミュは、
「なに、氷河のダンスを見て笑い死にするような無様を 衆目にさらすことは避けたかったから、さっさと自分から笑ってやったのだ」
と答えて、氷河の師としての体面を守ろうとしたのだが、その実、氷河が踊り出す前に自分の記憶領域内にあった氷河のイメージ画像を思い出して、つい吹き出してしまった――というのが、彼の敗北の実相だった。

10秒あまりで終わったシベリア師弟対決とは対照的に、瞬とアフロディーテの勝負は30分の長帳場になった。
アフロディーテは、まず白バラを口にくわえ、そのバラを落とすことなく鮮やかに『にらめっこしましょ、あっぷっぷ』を言ってのけたのだが、心ここにあらずの瞬は無反応。
次に紅バラ、更には黒バラと、アフロディーテは口にくわえるバラの色をとっかえひっかえし、最後には頭のてっぺんでバラの花を咲かせるという必殺技まで披露したというのに、瞬は、魚座の黄金聖闘士の奇矯な振舞いを くすりと笑うことさえしなかったのである。

「ごめんなさい。僕だって笑ってさしあげたいんですけど、今はちょっと精神的に余裕がなくて……」
アフロディーテの奮闘振りに笑顔で報いることのできない心苦しさに、瞬は彼に謝罪せずにはいられず、実際に謝罪した。
それが、魚座の黄金聖闘士の誇りを傷付ける。
青銅聖闘士ごときに加えられる それ以上の屈辱と侮辱に耐えられそうになかったアフロディーテは、勝負開始から30分後、ついに審判にギブアップを申し出たのだった。






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