戦いはまだ続いている。 それは知っていたのだが――。 二人が出会ったのは、戦場から遠く離れた場所にある小さな野原だった。 戦いは主にエーゲ海に点在する島々で局地的に頻発しており、ギリシャ本土の更に内陸部にはまだ及んでいない。 ポセイドンが手に入れようとしているのは、女神アテナに守られたアテネの町。 勝利の報酬となるはずの町を戦場に――その結果として廃墟に――することは得策ではないと、海神は考えているのだろう。 なにより、海神の影響力を強く及ぼすことのできる海の近くで戦う方が、海神の配下の者たちは有利に戦いを進めることができる。 それゆえ、海神ポセイドンの配下の者たちは、今のところ、ギリシャ本土の海岸線に姿を現わすことはあっても、内陸部にまでは侵略の手を伸ばそうとはしていなかった。 敵が現われないのだから、必然的にアテナの聖闘士たちがそこを訪れることもない。 そんな場所に、そのささやかな野生の花園はあった。 戦場となっているエーゲ海の島々からも、アテナの神殿がある聖域からも、人の住む村からも離れた静かな野原。 ヒョウガがその野原に行ったのは、亡き母に捧げる花を探してのことだった。 戦場は拡散し拡大し、戦いは健気に野に咲く花を散らす。 そんな遠くまで出向かないことには、ヒョウガは花に巡り会うことができなかったのだ。 人の手の入っていないオリーブや月桂樹の林が切れ、突然目の前にぽっかりと広がった野原に出合った時、ヒョウガは、自分がどこか違う世界に迷い込んだような気がした。 そこにだけ太陽の光が満ち、そこだけが幻想の国のように美しく静かで、戦いの影がない。 小さな広場のようになっている野原の周囲は樹木で囲まれ、外界から遮断されていた。 そこに咲いているのはもちろん、すべてが小さく可憐な野草の花ばかりで、それらの花には、人によって育てられた鑑賞用の花のような華やかさや誇らかさはない。 ほとんどが白か薄桃色の、控えめで自己主張のない花である。 だが、そんな花たちだからこそ、ヒョウガはそれらの花の姿を見た時に、心安らぐ思いを覚えることになったのだった。 |