二人はそれから、会うたびに抱き合って過ごした。
たとえ一時いっときでも、花の精が“退屈”だなどと、どうして考えることができたのかと不思議に思えるほど、二人は二人を求め与え合うことに忙しく、夢中になった。

戦いは続いている。
ヒョウガもいつかは再び戦場に向かわなければならなくなる時がくるだろう。
そして、そこで命を落とすことがないとは言えない。
戦いには慣れていても、だからこそ、必ず自分が戦場から生還できるとは限らないことを、ヒョウガは知っていた。

そんな不安は、だが、シュンに会えば忘れることができた。
何よりも、再びシュンに生きて会えることに安心する。
そして、ヒョウガは、シュンに会うと身体を交えずにはいられなかった。
戦いによる死もさることながら、アテナの聖闘士であることをシュンに知られ、戦いが嫌いなシュンに嫌悪の表情を向けられる時の訪れを思うだけで、恐ろしい。
ヒョウガは、自分がアテナの聖闘士以外の何者にもなれないことを知っていた。

シュンと繋がっている時に最も、ヒョウガはシュンと離れなければならない日の訪れを恐れた。
それでいて、シュンと抱きしめ合っている時には、これまで生きて過ごしてきたどの瞬間よりも強く大きな安堵と歓喜を覚える。
シュンと離れていることが不安で、シュンといつも一緒にいられたらどんなにいいだろうと、ヒョウガは切望せずにはいられなかった。

だが、ヒョウガはシュンに、シュンがどこに住んでいるのかということすらも尋ねることができなかった。
尋ねれば、ヒョウガ自身も同じ問いに答えなければならなくなる。
言えるわけがなかった。
俺は聖域で暮らしている。俺はおまえの嫌いな、戦いを生業なりわいとする聖闘士なのだ――などということは。

花の咲いている場所でしか、戦いのない場所でしか、二人は抱き合えない。
二人がいつも一緒にいるためには、ヒョウガはシュンに本当のことを知らせ、シュンに戦いという現実を受け入れてもらわなければならなかった。
だが、いつまで経っても、幾度身体を交わらせても、出会いの時にはいつも白い花の風情で恥ずかしそうに頬を染めるシュンに、そんな現実を受け入れてもらうことは不可能なことのような気がする。
ヒョウガは、どうしても事実をシュンに告げることができなかった。

戦いによる死。
アテナの聖闘士であることを知られ、シュンに疎んじられることによって訪れる別離。
どちらにしても、これは未来のない恋である。
だが、ヒョウガは、だからこそ、出会うたびにシュンを抱きしめ喘がせずにはいられなかったのである。
この恋は、幸福な未来を思い描くことのできない恋だった。
ならば、今を貪り尽くすしかないではないか。

事実を知らせる代わりにシュンを抱きしめ、シュンの身体の奥深くに入り込むことで、『自分はシュンに受け入れられている』と思うこと以外、ヒョウガにできることはなかったのである。
実際、シュンは、ヒョウガをどこまでも受け入れてくれた。
ヒョウガのどんな望みも叶えてくれた。
心と身体以外に、いったい何が人間には必要なのだろうと思えるほどに、ヒョウガの心と身体はシュンのもので、シュンの心と身体はヒョウガのものだった。






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