それまで せいぜい領地の見回りという防衛策にばかり腐心していたヒョウガは、突然 迅速な攻撃に転じた。 彼は翌日には正式にリビュアの館への訪問を申し込み、珍しく領地に滞在していたリビュアの領主と会談の約束を取りつけることができた。 約束の日、ヒョウガは、5年前の新王の即位式以来の正装をして、リビュアの城に乗り込んだのである。 「スキュティアの領主は貴家と縁続きになることを希望し、こちらのご令嬢に結婚を申し込む」 挨拶らしい挨拶もなく、出会いがしらに用件を切り出したヒョウガへの、リビュアの領主の返答は、 「貴様は何を言っているんだ」 というものだった。 初めてまともに顔を見ることになったリビュアの領主は、あの少女の兄とも思えないほど傲岸な目をした男だったが、ヒョウガはそんなことは気にもとめなかった。 ヒョウガが妻に迎えたいと思っているのは、このむさくるしい顔をした男ではないのだ。 彼女の兄の顔の出来など、オーツ麦の出来ほどの意味もない。 「貴公を兄と呼ぶのは 俺とて不本意だが、これが両家にとって最もよい解決法だと思う」 「だから、貴様は誰と結婚したいと言っているんだ」 「しらばくれるのはやめてもらおう。なぜ隠すんだ。彼女を手放したくない気持ちはわかるが、どうせ、いずれはどこかの男にくれてやらなければならないんだ」 ヒョウガはリビュアの領主を傲岸と思ったが、リビュアの領主もまたヒョウガに対して似たり寄ったりの感慨を抱いていただろう。 ヒョウガは、既に、あの少女に対する自分の思いが恋であることを自覚していた。 彼は生まれて初めての恋に心が逸っていたし、あの少女を他の誰かに奪われたくないという気持ちが、もともと理論立てて話をすることの不得手なヒョウガを焦らせ気負わせていた。 その焦りが、ヒョウガに、平素以上に高圧的な態度をとらせる。 「俺では不足だというのか。俺はスキュティアの正統な領主だぞ。この国で 国王に次ぐ広い土地を持ち、城には麦や金が置き場に困るくらい詰まっている。婚約者も愛人も妾もいない。リビュアにとっても、縁続きになって損はない相手だ」 「だから、当家には嫁にやれるような娘はいないと言っているんだ!」 ヒョウガ以上に苛立っているリビュアの領主が、ヒョウガに覚えた印象は最悪のものだったろう。 二人の領主の交渉は決裂、ヒョウガはリビュア卿の妹に再会することも叶わなかった。 |