「アテナのお考えはよくわかりました。それは黄金聖闘士たちも同じだと思います」
黄金聖闘士たちを代弁して、魔鈴が少々早口で答える。
黄金聖闘士たちが本当にアテナの真意を理解したのかどうか――そんなことは、彼女には実はどうでもいいことだった。
魔鈴はとにかく、やかましい動物園状態の聖域を、少しでも早く、元の神聖冒さざる場所に戻したかったのである。

そんな魔鈴の意を汲んだのか、金色の衣をまとった者たちの神妙な顔を ひと渡り見まわしてから、アテナは、
「ならば、元に戻しましょう。どう?」
と言った。

「あああああ」
自分の喉から自分の意図した音が発せられることを確認し、ジェミニのサガがおもむろに顔をあげる。
「さすがは、アテナ。お教え、身にしみました」
サガがそう言ってアテナの前に平伏すると、他の黄金聖闘士たちも彼にならった。
沙織が涼やかに笑いながら、彼等に身体を起こすように命じる。

「あら、この作戦を考えついたのは瞬よ。今のままでは黄金聖闘士たちは、その大層な理想と並外れた実力にもかかわらず、何事も成し得ない空しい人生を送ってしまうかもしれないと心配して」
「なんと」
アテナは、おそらく、その事実を黄金聖闘士たちに知らせるべきではなかった。

そんなことを、神であるアテナに言われたのならともかく、格下で年下のヒヨッコに言われてしまったということが、たった今自らの傲慢を反省したばかりだった黄金聖闘士たちのプライドを、いたく傷付けることになったらしい。
もちろん己が未熟を省みる彼等の心は嘘偽りのないものだったろうが、黄金聖闘士というものは、本来が異様に自尊心の強い者たちの集まりなのである。
特に、最も神に近い男であるシャカには、心当たりがあるだけに瞬の言が気に障ったらしかった。

「おのれ、人に楯突くことなど考えてもいないような顔をして、目上の者に向かって――」
「何か言いましたか、シャカ?」
「いえ、黄金聖闘士である我々が、青銅聖闘士にそこまで心配されるとは情けない限りだと言ったのです。ここはぜひ、青銅聖闘士たちに手本を示してもらいたいと」
自らの誇りを傷付けられることに敏感な人間は、その誇りを守る術に長けているものである。
シャカは、表向きは神妙至極な顔をして、いかにももっともらしくアテナに訴えた。
沙織が、シャカの提案に、僅かに眉をひそめる。

「星矢たちにも同じことをしろと? でも、星矢たちはこのからくりを知っているから、言葉が通じなくなっても、あまり慌てたりしないと思うわ。おそらく、さほど面白いことにはならないわよ」
「もちろん、この素晴らしい計画を立案した彼等は、自分たちがそんな状況に置かれることになっても慌てることはなく、困ることもないでしょうが――試してみたことがおありですか」
「それは――ないけど」
「ならば」
「……」

沙織がシャカの提案に心を動かされていることに気付いた星矢たちが、彼女に馬鹿な真似をさせないために動くより、
「仕方がないわねえ」
というアテナの決断(?)の方が、一瞬早かった。
「沙織さひひーん」
「シャカのりんりんりんりんりん」
「口車などにくえーくえー」
「乗せられないでくださちゃりんちゃりん」
アテナを制止しようとした青銅聖闘士たちの言葉の後半は、既に人語ではなくなってしまっていたのである。






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