愛されていないことがわかっているのに、氷河に犯されることを喜んでしまうのは、それでも自分が彼を愛しているからなのだろうか。 意識していなかっただけで自分が氷河をずっと好きでいたことを、彼に傷付けられるようになって初めて自覚することになった瞬は、そんな自分の反応が不思議でならなかった。 氷河を好きだったことに今になって気付くのも間が抜けているが、こんなことをされてもまだ自分は氷河を好きでいる――憎めずにいるらしいことが、自分でも納得できない。 あるいは自分は既に氷河を憎んでいて、その上で、身体だけが彼の愛撫に喜び、満足しているのか――。 身体ほどには はっきりしない自分の心に、瞬は迷い戸惑っていた。 もし自分が既に氷河のものになってしまっているのなら、いっそ氷河の望みを叶えてしまえば自分の心もわかるようになるのだろうか――と、自棄気味なことを考え――そして、瞬はあることに気付いた。 氷河の望み――それはいったい何なのだろうかと。 思い起こしてみると、彼は一度も彼の望みを具体的に言葉にしたことがなかったのだ。 『おまえを俺のものにすれば、俺はすべてを手に入れることができる。すべてをだ』 その『すべて』とはいったい何なのか。 『俺の望みを叶える気になったか?』 彼は、彼の『望み』を明言したことがあっただろうか。 『誰だって変わるぞ。自分が望む力を手に入れられるかもしれないという夢を、目の前に置かれたら』 氷河が望む その『力』とは何なのか。 『奴は地上の支配者になることの意味も価値もわかっていないだけだ。力を持たない人間を自分の意に従え、自分は強者だと思えることの快さも、弱い者を見下す爽快も』 だが、氷河は、それを欲しいと瞬に告げたことはない――。 瞬の身体は、おそらく――もはや完全に氷河のものだった。 もしかしたら彼は既に、それを望めば叶う立場にあるのではないか。 にも関わらず、氷河は決して彼の望みを言葉にしない。 氷河はこの世界の支配者になりたいのだと、瞬は勝手に決めつけていたのだが、彼が望む『すべて』、彼が望む『力』とは、実はそんなものではないのではないか。 少なくとも2年前まで、氷河は、彼の母の命を奪った人間同士の戦いと、戦いを人の心に生む我欲や支配欲を、心から憎み軽蔑していた――。 「氷河は、この世界の支配者になりたいの」 尋ねると、氷河はそれには答えず、無言で瞬を抱きしめてきた。 冷たい笑みを浮かべ、挑発するように、瞬の身体のそこここを刺激して、瞬から言葉と思考力を奪おうとする。 もしかしたら氷河は――。 自分の胸中に浮かんできた疑念を、瞬はどうしても確かめずにはいられなくなったのである。 瞬にとって、それは、“希望”と呼べるものだったから。 言葉で問うても、氷河が答えてくれないだろうことは、瞬にはわかっていた。 どうすれば、そして いつなら氷河は正直になってくれるのか。 考えあぐねていた瞬は、やがて、その時、その状況に思い当たった。 |