その夜も瞬は、彼の囚人を犯す氷河に屈していた。
「ああ……いや……もっと、氷河、もっと……ああっ」
演じなくても、淫らな声は勝手に瞬の口をついて出てくる。
喘ぎ、のたうち、手足を氷河に絡めながら、瞬は氷河に更なる淫楽を求めた。

その哀願に応えるように、氷河の律動が激しくなる。
いくら氷河でも、まもなく達する――と感じた瞬間、快楽に意識が飛びそうになる自分を叱咤して、瞬は固く閉じていた目を必死の思いで開けてみた。
そして、瞬は見ることになったのである。
あさましく喘ぎ乱れる自分を、氷河の青い瞳が悲しげに いたわるように見おろしていることに。
それは悲痛ではあったが、冷たくはなく、汚れていく瞬を哀れんではいたが、軽蔑してはいなかった。

「あああああっ!」
途端に瞬の心は、これまで感じたことのない強烈な悦楽――それは、後悔と痛みと羞恥でできていた――に襲われたのである。
身体が感じている快感と相まって、大きな快楽のうねりが瞬を呑み込もうとする。

そこにいたのは、瞬の知っている氷河、瞬が好きになった氷河だった。
一人で生きていくには力の足りない瞬を助け、支え、その代償に瞬の笑顔をしか求めなかった氷河。
その氷河が、あさましく喘ぐ瞬を、悲しげに見詰めていた。

なぜかはわからない。
氷河がこんなことをした理由は、瞬にはわからなかった。
だが、少なくとも氷河は、我欲のためにこんなことをしたのではないと、それだけは瞬にもわかった。
おそらく何らかの やむにやまれぬ事情があったのだ。
氷河は変わっていない。
氷河は変わってしまったのだと、なぜ自分はたやすく信じてしまったのか――。

氷河に謝らなければ――と、瞬は思ったのである。
何よりも、氷河を信じきることのできなかった自分を、彼に謝罪しなければ、と。
「氷河……氷河、ごめんなさい……あっ……ああ、だめ……いく……っ!」
だが、身体が瞬の意思を捻じ伏せる。
否、氷河に嫌われていないと思える心が、瞬の歓喜を尋常でなく大きなものにしていた。

愛している人に愛される喜び楽。
この世にそれ以上に 人の心を圧倒するものがあるだろうか。
心身の絶頂を感じながら、だが、瞬は、そんな自分が悲しくてならなかった。
これまでは、我欲に満ちた男の前だから、瞬は自分があさましく乱れ喘ぐことも平気だったのだ。
だが、氷河はそういうものではなかった。
自身の悲鳴、痙攣する身体、氷河の吐き出したものを ひとしずくも外に洩らすまいと収斂する自らの体内の肉すらも、瞬は恥ずかしくてならなかった。

恥ずかしくて――早くこの快楽から逃れ出て氷河に謝らなければと、瞬の心はあせった。
だが、過ぎる快楽が、瞬から身体の自由を奪う。
身体が重くて、どうしても瞼をあけることができない。
瞬は結局、このまま快楽の余韻に沈みたいという身体の意思に負け、そのまま意識を失った。

そして、次に瞬が目覚めた時、瞬が閉じ込められていた城の周囲の様子は一変していた。






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