「俺はおまえを愛している」 そう告げた氷河の眼差しは、真剣そのものだった。 これがどういうことなのか、どんなことをするものなのか――を、瞬はおぼろげにはわかっていた。 おぼろげにしかわかっていなかった。 異性同士のことではないのだから、もちろん これは生殖行為ではない。 が、それが異性間のことであれ同性間のことであれ、互いが互いにすべてをさらけだし触れ合うことは、自分が相手に敵意を持っていないこと、無防備な自分をさらけだすことに躊躇を覚えないほどの信頼感を抱いていることの証左になる。 つまり、これは、自分が相手を『好き』でいることを全身で示す行為なのだと、瞬は理解していた。 だからこそ、何をどうすればいいのか、自分がどう行動すべきなのかということを つまびらかに知らなくてもどうにかなるだろうと考え、瞬は氷河に求められるまま、彼の部屋に行き、身に着けていたものを脱ぎ、彼と同じベッドに入ったのである。 氷河を『好き』な気持ちに嘘はない。 むしろ、自分はその心に確信を抱いている。 だから、たとえどんなことになっても、自分がこの行為の本来の目的から外れたことをしてしまうことはないだろう――。 そう考えて、瞬はどちらかと言えば軽い気持ちで、氷河とのその未知の行為に臨んだのだった。 だが。 裸の瞬に身体を重ね、瞬の瞳を見詰めながら そう告げた氷河の青い瞳は、謹厳そのもの。 まるで己れの人生の指針を神に誓う人間のそれのように、彼の瞳の奥には固い決意がたたえられていた。 瞬は、自分があまりにも安易に氷河の求めに応じすぎたのではないかと、ここまで来てしまってから、途轍もない不安に捉われてしまったのである。 「あ……」 もちろん、氷河を好きでいる。 彼を信じてもいるし、彼の命と心を守るためになら、自分の命も惜しくはないと思う。 それでも瞬は、もしかしたら自分は彼ほど真剣には彼のことを好きでいないのではないかという不安を感じないわけにはいかなかった。 それほどに――氷河の瞳にたたえられた決意と誠意は、深く強いものに感じられたので。 「おまえは俺にとって特別な人間だと思う。多分、おまえが生きている限り、俺にはおまえだけだ。そして、できる限り長い間、おまえと一緒にいたい」 「氷河……」 氷河は、残酷なことも、冷酷なことも、まして瞬を脅すようなことも言っていない。 だが瞬は、彼の言葉に恐怖めいたものを覚え、そんなにも真剣な様子の氷河を『恐い』とすら感じてしまったのである。 もちろん、氷河を好きな自分の気持ちは真実のものだと思う。 しかし、自分にとって氷河は唯一の特別な人間だろうか。 生きている限り、この心は絶対に変わることはないだろうか。 氷河と共にいない時間を望むことが、この先 決してないと 言い切ることができるだろうか――。 自分の心に自信を持つことができなかった瞬は、力強く情熱的な鼓動を打っている氷河の胸の下で、全身を固く凍りつかせた。 |