「瞬はどこだっ」
部屋履きを突っかけた格好で俺がラウンジに飛び込んでいくと、
「おわっ」
取り乱した俺の格好を見て、星矢が素頓狂な声をあげた。
俺はパジャマ1枚を身につけているだけだったし、そのパジャマのボタンはみんな外れていた。
星矢が俺の風体を異様と思っても、それは仕方のないことだったかもしれない。
だが、俺はもともと衣類をつけてベッドに入るのが苦手なんだ。
ちゃんと寝間着をつけてベッドに入っていただけでも、俺にしては上出来なことだったんだが、星矢はそうは思わなかったらしい。
胸を はだけた男が目を血走らせて瞬を追いかけていたら、それは星矢でなくても尋常ならざる事態と思っていただろう。

「瞬はどこだ」
「瞬なら、さっき廊下を走って玄関の方にいったけど。なんか様子が変だったぞ」
「庭か」
だが、今は、星矢に事の経緯を説明している暇はない。
星矢の言葉を聞くと、俺はすぐに踵を返した。
俺は自分では随分迅速に動いているつもりだったんだが、どうやらそれは自分だけがそういうつもりになっていただけだったらしい。
瞬を追って庭に出ようとした俺は、そうする前に紫龍に腕を掴みあげられていた。
そして、奴は、実に馬鹿げたことを俺に訊いてきた。

「おまえ、まさか、熱にうかされて、瞬を襲おうとしたんじゃないだろうな」
何を言っているんだ、この時代錯誤の長髪男は!
いくら俺が取り乱した格好で、熱のせいで焦点も合っていないような目をして、瞬を追いかけまわしていたとしても……いや、まあ、そう誤解するのも無理はないか。
だが、それは誤解だ。

俺は奴の手を振り払うために、努めて落ち着いた口調で、
「違う」
と答えた。
しかし、俺はそれで自由を取り戻すことはできなかった。
「違うんなら、なんで瞬は泣いてたんだよ!」
星矢が横から、そう怒鳴りつけてきたせいで。

やはり瞬は泣いていたんだ。俺のせいで。
俺は焦りを覚え、瞬を追いかけようとして、再び紫龍と星矢に取り押さえられた。
瞬の身の安全を確保しようとして、奴等はそうしたんだろうが、それは誤解――いや、まあ、この状況を目の当たりにしたら、それも自然な誤解だったろうが。
結局、俺は、瞬の身の安全を図ろうとする仲間たちから自由を取り戻すために、二人にすべてを白状せざるを得なくなった。






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