人間、やろうと思えばできるもんだ。 あんなに具合いのいい瞬の中で、油断していたら、30分どころか30秒ももたずにイかされてしまいそうなところなのに、俺は依頼された仕事をやり遂げた。 そんな化け物じみたことをやり遂げてしまう自分自身を訝りながら、俺は妙な自信を深めていた。 瞬は俺の仕事振りが お気に召したらしい。 それはそうだろう。 あれだけ泣かせ続けてもらえたら、文句のつけようもあるまい。 もちろん、それから毎晩、俺は瞬を相手に人間離れした奇跡を起こしてやった。 ――俺は瞬に意味ありげな目配せをする。 仲間たちとの話を中断し、瞬は俺のあとを追って俺の部屋にやってくる。 その一連の行為を、俺は瞬と星矢たちの会話が佳境に入った時を狙ってやらかしてやった。 瞬が俺と寝ていることに星矢たちが気付くのに、さほど時間はかからなかった。 当然だ。 俺は自分が瞬に対して確立した立場を誇示するために、毎晩わざとそうしてやったんだから。 最初は鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしていた星矢が、日を重ねるにつれて不愉快そうな顔になり、やがて奴は自分の怒りを隠さなくなった。 その変化を見ているのが、俺は楽しくてならなかったんだが、星矢は楽しいどころの話じゃなかったらしい。 「あれは氷河じゃない! わかっているのかっ!」 星矢が瞬を掴まえて怒声を響かせている場面に俺が出くわしたのは、俺が奴を挑発し始めてから半月ほどが過ぎた頃。 星矢と瞬がいるラウンジのドアの脇の壁に肩を寄り掛からせて、俺は、我ながら悪趣味な北叟笑みを浮かべながら盗み聞きを始めた。 星矢がどんな理屈で瞬を責めるのかということにも興味はあったが、俺は、それ以上に、仲間の叱責に瞬がどう答えるのかを知りたかった。 まさか あの瞬が、「セックスの相性が抜群にいいから」なんて正直な告白をするはずがない。 はたして瞬は この偽りの関係をどう言い訳するのか――俺に、それを知りたがるなと言う方が無理な話だ。 瞬は――瞬は、 「星矢。僕は氷河を守ってあげたい。今の氷河はあまりに弱くて……。僕はもう、僕の手の届かないところで、氷河を守れずに失ってしまうのは嫌なの」 と、星矢に言った。 罪悪感も、同性とのセックスに溺れている自分を恥じた様子もなく。 瞬はいったい何を言っているんだ? 俺が弱いから守ってやりたい? 毎晩瞬のために30分も頑張ってやっている男に、よくそんなことが言えたもんだ。 俺に散々 揺さぶられ押しつぶされて、『いや、もう、許して』とか何とか、毎晩可愛い声で泣いて俺に懇願しているのはどこの誰だ。 俺はよっぽど二人のいる部屋の中に飛び込んでいって、その事実をぶちまけてやろうかと思った。 が、結局俺にはそうすることはできなかった。 瞬の言い草には腹が立ったが、ここで瞬の機嫌を損ねて、もし瞬が夜になっても俺の部屋に来てくれなくなったら――と考えると、俺は“慎重に”ならざるを得なかったんだ。 もしそんなことになってしまったら、瞬の許に赴いて、その前に跪き、頼むから俺と寝てくれと懇願する羽目になるのは俺の方だということが、俺にはわかっていたから。 その日の夜も、それ以降も、瞬は毎晩俺の――“氷河”の――部屋に来てくれたし、俺を拒んだりすることはなかったが。 俺は、瞬から離れられるだろうか――。 城戸沙織と約束した契約の終わりの日が近付くにつれ、俺は、そんな不安に苛まれるようになっていた。 |