氷河が他の男とどこが違うのかが、瞬にはわからなかった。
氷河はおそらく、瞬が許せば他の男たちもそうしただろうことを、他の男たちと同じことを、瞬の身体に対してしようとしている。
多分、氷河は他の人間と何も違わない。
違うのは自分の方なのだと、氷河の湿った舌のなまなましさを その胸に感じながら、瞬は思った。
氷河は他の男たちと何も違わない。
ただ、瞬が氷河を好きでいること――その一つの事実だけが、瞬にとっての氷河を特別な人間にしているのだ。

好きな相手に求められることが不快なことであるはずがない。
何かに急かされているような乱暴な愛撫も、思い直したように優しい愛撫も、それが氷河の手によるものなら、瞬には何もかもが好ましく感じられた。
心と身体は直結しているらしく、心の命じる通り、瞬の身体は氷河の愛撫に素直に歓喜する。
「あ……んっ!」
瞬をうつ伏せにして、その背中やうなじまで――まるで自分が見、触れたところはすべて自分のものになると信じ込んでいるような綿密さで、氷河は瞬の身体を丹念に その手や唇で愛撫した。
その感触、身体のあちこちに感じる氷河の吐息に追い詰められるように、瞬は理性と意識とを少しずつ手放すことになっていったのである。

「ああ……いや、ああ、僕……」
「おまえは女より綺麗だから、ここまでは問題ないんだが……」
瞬の身体の表層を ことごとく愛撫し尽くした氷河がそう言って瞬の顔を覗き込んできた時、瞬は彼の愛撫に犯されて、熱に潤んだ瞳でぼんやりと氷河を認めることしかできなくなっていた。
この行為が、こんなふうに意識を遠ざけさせるだけで終わるものではないことくらいは、瞬も知っていた。
身体中のどこもかしこも すべてが、氷河に与えられた熱で疼いている。
このままの状態が続いたら、自分はゆっくりと狂っていくだろう。
終わりのない緩やかな快楽は、死ぬことのできない人間の苦悩に似ていると、瞬は感じていた――もう、考えることはできなかった。

「おまえは痛い思いをするかもしれない」
心配そうに氷河が囁いてきたが、このまま徐々に緩やかな快楽に狂っていくよりは、痛い方が はるかにましである。
それ・・が何なのかは知らないが、瞬の身体はそれを欲していた。
自分をそういう気持ちに追い込むための執拗な氷河の愛撫だったのだと、今になって瞬は気付いたのだが、もはや それを求める気持ちはとめられない。
瞬は氷河の腕にすがりつき、自分から、疼く身体を氷河に押しつけていった。

「早く……早く……氷河、でないと、僕、気が狂う……!」
自分が何を求めているのかは、瞬自身にもわかっていなかった。
だが、それが欲しいのだ。
欲しくて欲しくてたまらない。
瞬が身悶えるように訴えると、氷河は嬉しそうに頷き、瞬の腰を抱えあげて、その圧倒的な力を瞬の中に押し込んできた。

「ああああっ!」
氷河の侵入は、想像以上の衝撃を瞬の心身にもたらした。
これまで夢の世界を漂っているようだった心地良さが、一瞬にして消滅する。
バトルで身体を打ちつけられたり傷付けられたりするのとは全く違う痛み。
身体の内側のやわらかい内壁をえぐり擦ってくる氷河のそれは、刃物のようだった。
耐え切れずに、瞬は、『痛い』と泣き叫ぼうとしたのである。
瞬の悲鳴を遮ったのは、氷河の囁き――
「いい……瞬……おまえの中、すごい……」
呻くように低い、氷河の声だった。

それだけのことで、瞬は氷河に逆らえなくなってしまったのである。
抵抗を諦めて、瞬は身体から力を抜いた。
瞬の中で、氷河がゆっくりと動いている。
自分の中にいる氷河の大きさや硬さが感じ取れるようになって、瞬はぞくりと背筋に戦慄めいたものを感じた。
「ああ……!」
そのなまめかしく不気味で我儘な生き物に身体の中を蹂躙させることに、瞬は、自分でも信じられないことに 凄まじいほどの快感を覚えていた。

好きな人に求められることは気持ちがいい。
氷河を自分の身体で喜ばせることができるのなら、それは瞬にとって何よりの幸いだった。
嬉しさに ぞくぞくと身体が震え、腰が勝手に浮き、動く。
「あっ……あっ、ああ!」
「瞬……」
瞬の喘ぎに、氷河の呻きが重なる。
こんなに共鳴できる二人なら、二人の五感と心はもっと高みに至ることができるのではないかと思い、瞬はその思いを氷河に訴えた。
言葉ではなく、氷河と繋がっている部分を大きく前方に突き出すことで。
「氷河……っ!」

その時を待っていたかのように、氷河の動きが大きく激しくなる。
ゆっくりと身体の中を侵されていく感覚にもぞくぞくしたが、ひたすら奥に押し入ろうとする氷河の動きは、瞬に息をすることを忘れさせるほど衝撃的で、熱狂に似た感覚を瞬にもたらした。
「ああ……ああ、ああ……っ!」
目を閉じていても、氷河が瞬に向かって身体を押し進めるたびに、瞬の視界には閃光のような光が見えた。
氷河が身体を引く時にも、同じような衝撃が走る。

氷河の背中の筋肉に這わせていた指先に力を込め、瞬はほとんどしがみつくような格好で氷河にすがりついていたのだが、結局 瞬の細い腕は氷河の激しい動きに振りほどかれてしまった。
獰猛な獣に内蔵を食い散らかされているような感覚に、瞬は半ば本気で死を覚悟したのである。
「氷河……いや、もう、いや……氷河、助けて、ああ、氷河……っ」
瞬が泣いて懇願しても、氷河は瞬を刺し殺そうとする行為をやめてくれなかった。
瞬の声がかすれ、瞬が 氷河と繋がっている部分以外の身体のすべての感覚を見失っても、氷河は瞬の身体の中で、その力を誇示し続けた。

散々瞬を揺さぶり、瞬の身の内を切り刻んだあげく、瞬の中で果てた途端、凶暴な獣は借りてきた猫のように大人しくなり、そして今度は逆に瞬にしがみついてきたのである。
「俺の側にいてくれ、瞬。頼むから」
自分の暴力に、瞬よりも傷付いているような氷河を安心させるために、瞬はもう一度彼の前に身体を開いてやらなければならなかった。






【next】