瞬が俺を好きでいるのか嫌っているのか。
それが俺の知りたい唯一のことだった。
とはいえ、瞬が俺を嫌っていないということはわかっているんだ。
俺に限らず、瞬は滅多なことでは人間というものを嫌いにならない。
俺の知りたい『好きか嫌いか』はもちろん、瞬が恋の相手として俺に好意を抱くことができるかどうかということだった。
それだけのこと。
だが、それだけのことがわからない。
瞬はその可能性の有無を俺に示してくれない。
結局俺の心は宙ぶらりんのまま――俺は、それからしばらく、自分の恋に苦悩するヴェローナのロミオみたいな日々を過ごすことになった。

恋に苦しむ男の姿が傍目にどう映るものなのかは、俺も知らないわけじゃない。
それは、第三者には、贅沢な悩みに浸っている ただの阿呆に見えるに違いない。
おめでたくて、ノンキで、馬鹿げていて――。
自分はそんな愚者にはなりたくないと思うから、恋をしていない奴等は、恋に悩む男の心を推し量り、その苦しみを理解しようとはしない。
愚かな恋人の代表格であるロミオも、『傷の痛みを感じたことのない者は、他人の傷跡を嘲笑う』と言っていた。
だが、その苦しみは、恋の淵に足を取られた人間には、息をするのも つらく感じられるほどの試練なんだ。

希望の見えない恋のせいで、俺がほとんど気が狂いそうになっていたところに、聖域に行っていたアテナから敵の出現が知らされた。
こんな時に!
よりにもよって、俺がこんなに苦悩している時に、どこぞの神が 聖域とアテナに宣戦布告してきたというんだ!

「そうしようと思えば聖域を急襲することもできるのに、わざわざ宣戦布告なんかして筋を通してきた律儀な敵なの。相手をしてやらないのも気の毒でしょう」
と、城戸邸の固定電話(!)に連絡を入れてきた沙織さんの口調は、あまり切羽詰まったものではなかった。
その時 沙織さんは、『まだ本調子ではないのだから、瞬は来なくてもいいわ』と言ってきたんだが、瞬はその指示に従わなかった。
見たところ瞬は健康そのものだったし、当たりまえのことのように仲間たちと共にジェットヘリに乗り込もうとする瞬を止める理由を、俺たちは見付けだすことはできなかった。

「でも、ポセイドンやハーデス、アポロンと、めぼしい神サマ方はほとんど出尽くした感があるし、ギリシャの神様なんて、あとはもう雑魚しかいねーんじゃねーの?」
聖域に向かうジェットヘリの中で、星矢は全く緊張感のない声で、幾度も詰まらなさそうにぼやいていた。
その点に関しては、俺も同感だった。
例のギガントマキアの時のように想定外の神がやってくることも考えられないではなかったが、俺は今は、恋を司る神以外のどんな神にも負ける気はしなかった。






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