氷河の失恋は、翌日には彼の仲間たちの知るところとなった。
氷河が自らその事実を触れてまわったわけではなく、もちろん 瞬が氷河との約束を破って氷河以外の仲間に性行為の指南を求めたからでもない。
ただ氷河は、自分の恋敵が何者なのかを知るために、星矢や紫龍に心当たりはないかと尋ねてみただけだった。
それで星矢と紫龍はすべてを察し、氷河は結局昨夜の出来事を彼等に白状させられてしまった――のである。

「沙織さんが、瞬の目標は、自分の殻を破って新たな飛躍を試みる目標だって言ってたし――あれだろ。瞬の今年の目標は、ずばり、『今年中に童貞を捨てる』!」
「それは、一般的な10代の男子が新年の目標として設定するには実に妥当な目標だが、しかし、あの沙織さんが そんな目標を アテナの聖闘士の目標として認めるとは考えにくいぞ」
仲間の失恋をどう考えているのかは知らないが、紫龍と星矢は、氷河の失恋の事実を知らされても、あまり真剣に同情してはくれなかった。

「それはあれだろ。瞬をすけこましに仕立て上げようって魂胆なんじゃねーの? オンナの服を褒めたりできる奴なんて、俺たちの中では瞬くらいしかいないし、そういう技って、敵が女だった時に有効じゃん。エリスの時には氷河は役立たずだったし、沙織さんは 瞬に褒め殺しの技をマスターさせようとしてんだよ」
決して星矢や紫龍に哀れまれたいわけではなかったのだが、それでも氷河は、そんな推測を楽しそうに語り合う二人を友だち甲斐のない奴等だと思わないわけにはいかなかったのである。

仲間への同情心に欠けるどころか、しまいには星矢などは、
「俺の目標も、日ペンやおやつ300円より、そっちの方にしてもらおうかなー」
などということをぼやき始めた。
氷河としては、早々に 仲間に情報提供を求める行為の無駄を悟ることしかできなかったのである。


氷河は瞬が好きだった。
誰にも渡したくないと思う。
だが、その瞬に――いつも地上の平和と安寧ばかりを願っているものと信じていた瞬に――好きな相手がいた。
ならば仕方がないと潔く諦めてしまうにはあまりにも強く長く、氷河は瞬を恋しすぎていた。
自分の運命の相手は瞬だと決めつけて過ごしてきた時間が、あまりにも長すぎたのである。

いっそ『おまえの知りたいことを教えてやる』と言って、瞬の身体にそれを教え込んでしまうのはどうだろう? ――ということすら、氷河は考えた。
そうして瞬を骨抜きにし、『おまえは他の誰かでは満足できないのだ』と信じ込ませてしまうという手もあるではないか――と。

瞬の心は、人を、全人類を、この世界のすべてを愛するためにあるものだろう。
だが、瞬の身体は、むしろ愛されるためにこそ作られたものである。
あのなめらかな肌が誰にも愛撫されることのないままで――俺に・・愛撫されることがないままでいるなど、あっていいことではない――と、氷河は思った。
思わずにはいられなかったのである。
それが正か否かを決めることができるのは瞬の心だけである――ということは わかっていても。






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