「氷河に幻朧拳を打ってもらったあ !? おまえ、なんでそんなことしたんだよ!」
瞬に泣きつかれてしまった星矢は、当然のことながら瞬の暴挙に驚き呆れることになったのである。
いったい瞬は何を考えて そんなことをしでかしたのか。
瞬の考えが、星矢には全く理解できなかった。

「だ……だって、氷河が――僕がマーマにそっくりだったら、開き直って僕を自分のものにしたいって思えるかもしれない――って、氷河がそう言ってたから……!」
涙まじりの瞬の告白に、星矢は小さく舌打ちをすることになった。
「おまえ、やっぱり、あれを聞いてたのか……」
それで、星矢は腑に落ちたのである。
同時に彼は、驚きを新たにした。
いつのまに瞬は、『開き直った氷河に彼のものにされたい』ほど、氷河を好きになってしまっていたのかと。

その契機・経緯の解明はあとですることにして。
いずれにしても瞬がこの暴挙に及んだのは、天馬座の聖闘士の趣味が『真理の探究』だったせいである。
さすがに責任を感じた星矢は、まるで聖闘士になる以前 城戸邸で共同生活を営んでいた子供の頃に戻ってしまったように ぽろぽろと涙をこぼし続けている瞬を 懸命になだめ、その涙を止めるために、氷河の真意を探ってくることを、瞬に約束してやったのだった。

もちろん星矢は その約束を即時実行に移した。
が、彼は、
「おまえ、昨日から露骨に瞬を避けてるみたいだけど――」
と探りを入れた氷河から、事態解決につながる いかなる情報を引き出すこともできなかったのである。
事態解決どころか――氷河は、自分自身の混乱にすら対処できずに、懊悩しきっていたのだ。

「俺が好きなのは瞬だ。マーマじゃない。瞬だ。なのになぜ、瞬がマーマに見えるんだ……!」
「あー……それはさ」
「瞬を見ていられない。俺はもう 今の瞬には近寄れない。俺は――自分で自分がわからなくなる……!」
「うん……。そりゃまあ、そうだろうなー ……」

氷河の苦悩は至極尤も。
星矢にできることは、なぜ青銅聖闘士の中では比較的 慎重で売っていた瞬が、突如気でも狂ったかのように こんな無分別な行動に出ることになったのかと、瞬の心を疑うことだけだった。






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