星矢と紫龍は、今度は本物の“兵庫県警のもの”たちと共に冥王家にやってきた。 無論 彼等が警察に同行し、その調査結果を知ることは、紛れもない越権行為にして立派な職域侵犯なのだが、彼等は自分たちの行動を警察への協力行為ということにしているらしかった。 星矢たちの職域侵犯は、だが、今の氷河には都合のいいことだった。 氷河は、この傷害事件――連続傷害事件になってしまった――のターゲットが誰であるのかということに、大きな不安を覚えていたのである。 「あのケースに触れる機会は、猛人より瞬の方が多かったはずだ。瞬がその仕掛けの犠牲になっていた可能性があるんじゃないのか」 それが、氷河の不安だった。 まるで自分が 正体の知れぬ悪意に狙われているかのように青ざめている氷河に、パンドラが探るような視線を向けてくる。 彼女は、氷河をこれほどまでに青ざめさせているものの正体を見極めようとしているようだった。 「瞬様は注意深い方ですし、ヴァイオリンのケースを開けるのに、猛人がするような乱暴な扱いはなさいません」 「それはそうだろうが……」 パンドラは猛人の名に『様』をつけることをしなかった。 この“事件”で猛人は瞬の夫になる資格を失ったのだから、それは当然のことだったろう。 「たとえ瞬が粗野な扱いをしていたとしても――あれは女には大して害のない薬なんだ」 「ああ、そうなのか」 星矢の説明が、やっと氷河の心を安んじさせる。 氷河を青ざめさせたものの正体は、瞬の身に危害が及ぶ可能性があるのではないかという、強く深い恐れだった。 その恐れは、もちろん彼の中にある瞬への好意が生んだものである。 だが、どうやらそれは杞憂だったらしい。 「しかし、こうなってみると、結局最後に残ったのは――」 星矢と紫龍に同時に視線を向けられた瞬の最後の夫候補は、一瞬、彼等の“犯人を見る(ような)目”に たじろいだ――ようだった。 だが、すぐに彼は、顎をしゃくって、その場にいる者たちに向かって息巻き始めたのである。 「いくらでも調べろ。これは冥王家の莫大な財産がかかった事件なんだ、特に念入りにな。そうすれば、早晩 俺が犯人でないことは証明される!」 そう怒鳴っている間にも、雄人の表情は、引きつり、紅潮し、また蒼白になる――というように、全く落ち着きがなかった。 彼はいったい、彼の計画通りにライバルたちが消えたことを喜び、その喜びを表に出さないようにしているのか、あるいは、次の犠牲者は自分かもしれないと考え、恐れ、虚勢を張っているのか。 氷河の目には、そのどちらでもあるように見えた。 いずれにしても、第二の犠牲者が出たことで、警察や冥王家の人々が、最も強い疑惑の目を天雄雄人に向けるようになったのは紛れもない事実だった。 |