自ら死を選ぶ――たとえ、愛する人の幸福を守るためであっても、それが神の意思に背く行為であることを、シュンは知っていた。 教会の祈りの小部屋の隠し戸棚の奥にひっそりと置かれていた不吉な色の小壜を手にした時、シュンの手は、これから自分がしようとしている行為の罪深さに恐れ震えていた。 だが、シュンは、神の怒りよりも、ヒョウガの幸福を妨げることの方が恐ろしかったのだ。 神は、神の意思に背いた愚かな人間に罰を下し、その魂は永劫の地獄で焼かれ続けることになるかもしれない。 だが、神は――裁きと罰を人の魂に下す神は、そうせざるを得なかった悲しい人間の心を、きっとわかってくれるに違いない。 シュンは、そう思いたかった。 だが、たとえそうでなかったとしても――だからどうだというのだ。 これはヒョウガの幸福を守るために必要なことなのだ。 不完全な婚約者がこの世界から消え去ることで、ヒョウガは自由を手に入れる。 結局 シュンのあとにキャピュレット家の娘を儲けることのできなかった両親も、モンタギュー家に婚約破棄などということを言い出さずに済み、その立場が守られることになるだろう。 すべては、男子として生まれてきた自分が悪いのだ。 それがすべての元凶だったのだ。 今となっては、そう思えることだけが、シュンのただ一つの“希望”だった。 「恐くない……恐くない、ヒョウガのためだもの」 この壜の中の液体を飲み干せば、二度とヒョウガに会うことは叶わない。 それは、シュンにとって、胸を切り裂かれるように激しい痛みだった。 だが、その痛みは、他でもない死が消し去ってくれるだろう。 嘆き悲しむ心に そう言い聞かせて、シュンは、不吉な色の小鬢の中身を飲み干したのである。 そして、かのジュリエットのように愛する人を迎え入れることは ついにできなかった白い寝台に、静かにその身を横たえたのだった。 |