「ここがおまえの部屋だ」 瞬が入室を促された部屋は、どこかのホテルの一室のような部屋だった。 置かれている家具はみな高価なもののようだったが、装飾はほとんどなく、生活臭も全く感じられない。 目立つ家具は、寝台、ライティングデスクと椅子、小さな衣装棚らしきものだけで、出入り口のドアの他に いずこかに続くドアが3つある。 広い部屋は掃除が行き届いていて、チリ一つ落ちていない。 瞬は、その部屋に、見知らぬ他人の部屋を見せられたような よそよそしさしか感じることができなかった。 瞬をその部屋に案内してくれたのは、瞬をこの邸に連れてきた金髪の青年と、この邸で最初に瞬を迎えてくれた少年だったのだが、瞬は思わず彼等に尋ねてしまったのである。 「あの……僕は本当にこのお屋敷に住んでいたんですか? ここは本当に僕の部屋ですか」 「――そうだが」 何を言っているのかと言いたげに――懸命に苛立ちを抑えようとしているのが嫌でも感じ取れる声音で――金髪の“氷河”が答える。 そんな氷河を横目で見ながら、この家で最初に瞬を迎えてくれた人懐こい目をした少年は 軽く肩をすくめた。 「瞬がここを自分の部屋だと思えなくても仕方ねーだろ。瞬の奴、もう半年くらい自分の部屋で寝てなかったんじゃないのか」 「だからと言って、俺の部屋に連れていくのは――」 「おまえのことも忘れてるんじゃ、それはまずいよなー。瞬と二人きりになって、おまえが紳士でいられるはずもねーし」 「俺は――」 友人(?)に反論しようとして、だが、直前で氷河はそうすることを思いとどまったらしい。 代わりに彼は、瞬を見ずに、 「ここがおまえの部屋なのは間違いない。今夜はここで休め」 と抑揚のない声で告げてきた。 「バスルームはあのドア。隣りがドレッシングルームだ。着替えはそっちのチェストかワードローブの中にあるだろう」 「え……」 その部屋にあった3つのドアは、それぞれバスルーム、ドレッシングルーム、衣裳部屋(!)に続くドアだったらしい。 自分の部屋のあまりに贅沢な設えに、瞬は、驚きのあまり溜め息を洩らすことさえできなかった。 いったい自分はどこの国の王子様だったのだと、瞬は半ば本気で思いさえしたのである。 チェストの中には夜着らしきものがあり、そのサイズは瞬の身体にぴったりと合うものだったが、瞬は、自分の部屋だという部屋にある広いベッドで、いつまでも眠りの中に落ちていくことができなかった。 |