「本当に俺は何もしていないし、何も言っていない。言うわけないだろう。見も知らぬ女に、家に泊まってもいいなんて」 愛する息子の弁解を、もちろん母は信じていた。 悪いのは息子ではなく、昨今の若い女の子たちの図々しいほどの積極性、そして、礼儀知らずと恐いもの知らずなのだと。 (まあ、それはもちろん、私の氷河が綺麗なせいもあるでしょうけど) そう思えば、見知らぬ若い女性たちの無作法な振舞いも仕様がないと思えるというもの。 人の家に上がり込むなり、居間のテーブルに不健康そうなジャンクフードを大量に広げ、携帯電話をいじり始めた躾のなっていない図々しい女の子を許してやろうという気にもなろうというものなのだ。 母子が住んでいる家は、夜には波音が聞こえる程度に海に近い場所にある別荘風の建物だった。 近くに人家はないが、30分ほど南に行けば小さな町があり、必要なものはそこで手に入る。 家の裏手に小高い丘があり、その丘は夏場には花と緑で埋め尽くされ、それだけでも一見の価値あり。 緯度が高いため、わざわざ高い山に登らなくても珍しい高山植物を見ることができるので、確かに ハイヒールを脱ぎたくない若い女性が好みそうな風光明媚な場所ではあった。 冬の寒さは厳しいが、長年住んでいるせいで慣れてしまったのか、あるいは近頃よく言われる地球温暖化のせいなのか、あまりこたえなくなってきている。 厳しい冬の寒さは、氷河の母にとっては、むしろ歓迎すべきものだった。 過ごしやすい夏場には 観光気分で この家に押しかけてくる若い女性たちも、冬がやってくると、その寒さに音をあげて早々に都会と呼ばれる場所に退散してくれるのだ。 そうして、深まる秋と共に、親子水入らずの静かな生活が戻ってくる。 それがわかっていても、できれば夏場も他人に煩わされることなく、息子と静かに過ごしたい――というのが、氷河の母の願いだったのだが。 「ほんとに氷河が誘い込んだのでなかったら、マーマ、あのコを追い出しちゃおうかな。マーマは、他人に家のキッチンを使われるのがいやなのよ」 「また夜中に音を立てて恐がらせたりするのか? おかげで、この家はすっかり幽霊屋敷という評判が立ってしまった」 「それでも引きも切らずにやってくるんだから、今時の女の子たちの度胸には恐れ入るばかりよ」 困惑顔の息子に そう言って笑いかけた時には既に、氷河の母の胸中では、無作法な女の子の追い出し計画ができあがっていた。 |