瞬は、慎重の上にも慎重を期したのである。 自分が確かめようとしている事柄は、まかり間違えば 公爵家に大変な不名誉をもたらしかねないことだということが、その証左を得る前から、瞬にはわかっていたから。 幸い 瞬は氷河との賭けに勝ち、彼の城を追い出される心配はなくなっていた。 だから、瞬は、その調査を、意識して急がなかった。 が、瞬がその調査を頼んだ相手は やたらと有能で――その相手というのは、瞬の兄だったのだが――、彼は瞬が望むより はるかに早く、その調査を完了してしまったのである。 調査結果を手に入れると、あとはその内容を氷河に知らせること以外、瞬にできることはない。 だというのに、瞬は、兄からの報告書を受け取ってから3日ほど、その事実を氷河に知らせるべきか否かを悩み続けた。 氷河は相変わらず意地を張って、横目でしか花園を見ようとしない。 瞬に対しても、憎まれ口としかいいようのないことしか言ってくれない。 それでも、瞬に向けられる彼の眼差しには、日に日に優しさと親密さが増していく。 そんな氷河を『可愛い』と感じる瞬の心も、日ごとに募っていた。 瞬は、氷河を傷付ける可能性のあることをしたくはなかったのである。 悩ましい3日を過ごした後、瞬は、そして、決意した。 氷河はその事実を知るべきであると。 知った方が、彼は幸福になれるだろう――なってほしいと。 「あの……僕、氷河のお母様が狂人でなかったことの確証を得ました。氷河のお母様が、どうしてあんな亡くなり方をしたのかわかった。氷河は、僕の話を聞く気がありますか」 兄からの手紙を手にした瞬が氷河の部屋に行き、そう話を切り出した時、彼は、狂った母を持った息子に瞬が告げようとしているのは、他愛のない慰めの類なのだろうと思ったようだった。 「俺はそんな話は――」 聞く気はない――と言いかけた氷河が、結局 その言葉を最後まで言わなかったのは、 「氷河にとっては、耳に快いだけの話ではないんですけど……」 という、ためらいでできた瞬の一言のせいだったろう。 瞬の表情が暗いものだったことが、かえって氷河を、その話を聞く気にさせてしまったらしい。 「……聞こう」 彼はそう言って、瞬に椅子を勧めてきた。 |