とんとん拍子っていう言葉があるけど、それからの僕たちは、まさしくとんとん拍子で親密さを増していった。
意外なことに、氷河は 僕がびっくりするくらい照れ屋だったし、僕はそっちの方では奥手の部類だったから、そうスムーズに事が運んだわけではなかったのかもしれないけど、そんな僕たちにしては、やっぱりそれは とんとん拍子と言っていい進行状況だったと思う。

互いに意識しすぎて、どこかぎこちない5日間を過ごしてから、僕たちは初めてのキスをした。
その夜のうちに――その夜から、僕は氷河の部屋で眠るようになった。
そんなことしてるのが僕だなんて、僕自身にも信じられなかったよ。
でも、氷河の不器用も無愛想も頑固も融通がきかないところも、そういうのは みんな 氷河の優しさでできてるんだってことが、その時にはもう わかってしまっていたから、僕は恐くなかったし、そうするのがとても自然なことみたいに、僕には思えたんだ。

それに、氷河とのそれ・・には、素敵な特典がついてきた。
不器用で無愛想で頑固で融通がきかないはずの氷河の素直と正直――っていう特典。
特別に親しくなった僕に、氷河は少し気安くなって、昼間の彼なら死んでも口にしないような優しくて甘い言葉や眼差しを、僕の上に惜しみなく降り注いでくれるようになったんだ。

「僕は、戦って人を傷付けるために生まれてきたの」
僕がそう尋ねると、氷河は、
「そうだ」
と答える。
あの時と同じ答えなのに、僕はちっとも悲しい気持ちにならない。
そう答える氷河が、何ていうか、すごく大切なものを見詰めてるような目で僕を見詰めてくれてるから。
そして、すごく大切なものに触れるみたいに僕の髪を撫でてくれるから。
だから、僕は、残酷な現実にも平気でいられた。

「そして、人を愛するため、誰かに愛されるため、生きることの可能性を探り、幸福を見付けるため」
「え」
眼差しや仕草だけじゃなく、他にもいろんな おまけがついてきて――僕は、その夜、氷河の胸の下で目をみはったんだ。
戦って人を傷付けるためだけに僕は生まれてきたんじゃないと、氷河は言ってくれていた。
「人が生まれてくる理由や目的が一つだけのはずがないだろう」
って。

氷河。
氷河が その言葉を あのデルポイの戦場で言ってくれていたら、僕は、つらい現実のことなんか綺麗さっぱり忘れて、迷うことなく氷河の胸の中に飛び込んでいたよ。
氷河は――氷河の融通のきかなさは、確かにかなり損な性質みたい。
でも、氷河はそういうとこがいいのかな。

僕は単純で、素直ないい子だから、氷河がそう言ってるんだから、きっとそうなんだろうって、あっさり信じちゃうよ。
実際、そうじゃないって反駁する どんな論拠も、僕は思いつかないし。
僕は、人を愛するため、誰かに愛されるため、生きることの可能性を探り、幸福を見付けるために生まれてきた。
氷河と一緒にいると、そう・・だと信じられる。
不思議なくらい自然に、その言葉と考えは 僕の心の中に入ってきた。






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