「おまえさ、いい加減に生活態度を改めないと、そのうち瞬に愛想尽かされるぞ。服だの本だの何でもかんでも その辺に放っぽっといて、あげくにパンツだと? それって、実の娘でも父親に幻滅するとかっていうパターンそのままじゃん。瞬はおまえのマーマでも世話係でもないんだからさ」
「無礼なことを言うな。俺は、その辺にものを散らかしたりなんかしてマーマの手を煩わせるようなことはしたことがない。俺は、その点に関しては、稀に見る いい子だった」
それが氷河以外の人間が為すものであったとしても、自己申告というものは当てにならないものである。
当然のごとくに客観性に欠けるし、確信が誤信である可能性も高い。
まして『俺は稀に見る いい子だった』と主張してくる人間が、鹿を追う時に山を見ない氷河なのである。
もちろん、星矢は氷河の言を信じなかった。

「なら、なんで今はこんなにズボラなんだよ。マーマの前で いい子の振りしてた反動が今頃出てきたってのか?」
「そういうわけではないが……。大丈夫だ。瞬は俺に愛想を尽かしたりはしない」
「おまえの その自信はどこから湧いてくるんだよ」
「まあ、顔から1割、股間から9割だな」
「おまえ、そんなシモネタ平気で口にしてると、そのうち絶対 瞬に嫌われるって」
「その点も大丈夫だ」

瞬の性格や価値観を知らないはずはないのに、どういうわけか氷河はどこまでも自信満々だった。
氷河の股間が有する力がどれほどのものなのかを、星矢は知らなかったし、知りたいとも思わなかったが、その力が氷河のだらしなさを補って余りあるものだと思うことは、星矢にはできなかったのである。
氷河自慢の股間の力と、瞬の清廉。
どちらが より強大な力を持っているかといえば、それは考えるまでもなく後者だろう。
氷河の自信は、星矢の不安を更に募らせるだけのものだった。






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