Happy Human Being






世間には、俗に『御三家』と呼ばれる私立校がある。
男子御三家が、A校、K校、M校。
女子御三家が、O校、J校、F校。
私立校の御三家というのは、つまり、T大への進学者の総数が国内で3位内にある高校を指す呼び名である。

現在 御三家と呼ばれている私立校は、長くその地位を他校に譲ったことがなかったが、諸行無常は世の習い。その地位が永遠不動のものであるわけもなく、昨今では、新御三家と呼ばれる新興勢力の台頭が著しい。
年によっては、御三家が“T大への進学者の総数上位3校”でなくなる事態も起きるようになっていた。
もちろん、元祖御三家側とて、簡単にその地位を新興の学校に明け渡すわけにはいかない。
成績不振が続けば、当然のことながら当該校への入学希望者は減り、学校経営に支障をきたす。
入学希望者数が減れば、生徒のレベルが下がり、T大合格率は更に下がり――いわゆる、負のスパイラルを生じることになるだろう。

学校経営は経済活動である。
各校の理事たちは当然、そういった状況を手をこまねいて眺めているわけにはいかなかった。
御三家が御三家でなくなってしまったら、それは何のとりえもない――むしろ、公立校より授業料のかかる――ただの私立校になってしまうのだ。
とはいえ、そこは仮にも青少年育成の場。
あまりえげつないことはできない。
学校側にできることは せいぜい、より優秀な生徒を より多く惹きつけるために、有能な教師を引き抜き、勉学のための最新の設備や教材を整え、情報をより多く、より早く集めるための努力を怠らないことくらいのものだった。

生徒も教師も人材は限られている。
まして、少子化が懸念されている このご時世。
そこに市場原理が働き、熾烈な争いが生じるのは理の当然。
そういうわけで、昨今の受験産業界は、戦国の世もかくやとばかりの壮絶な様相を呈していたのである。






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