氷河が母を取り戻した その日を境に、氷河はスキュティアの虜囚ではなく、ヒュペルボレイオス国からの客人として扱われることになった。
その日の夕餉は祝いの宴になり、氷河はスキュティアに来て初めてスキュティアの王や王弟と同じ食卓に着くことができたのである。
氷河がスキュティアの国境を侵した事実は不問に処されることになったらしく、氷河と氷河の母の席は王の次席、瞬よりも上座だった。

他に相伴を許されたスキュティアの家臣たちの表情に敵意がないのは、瞬の根回しのおかげだったろう。
むしろ、彼等の顔は一様に喜びめいた色を帯びていた。
おそらくは、今 彼等と同じ宴の卓に着いている異国の男が、もしかしたら まもなくヒュペルボレイオスの王になるかもしれないという期待のせいで。
氷河自身は、これまでそんな望みを抱いたことはなく(今も抱いておらず)、母と瞬が親しく言葉を交わしている様にこそ、最高の望みが叶ったような気分を味わっていたのだが。






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