氷河。 あなたからの手紙を受け取って、僕がどれだけ泣いたか、あなたに想像ができるでしょうか。 あなたが僕のことを忘れていなかったことを知って泣き、たった今 あなたが僕の側にいてくれないことを泣き、どうしてこんなことになってしまったのかがわからずに泣き、最後には、悲しいことを涙に紛らすために泣きました。 今どこにいるの。 どうして突然 僕の前から姿を消してしまったの。 僕が何か、氷河の気に障ることをしましたか。 たとえ紙に書いた文字ででも――こんなことを氷河に訊くのに、僕がどれほど勇気を振り絞っているか、それが氷河にはわかるでしょうか。 僕とのことを後悔しているんですか。 僕が、氷河の思う通りの僕ではなかったんですか。 それならそうと言ってくれて構わないんです。 そうしたら、僕だって諦めがつく。 僕は氷河の幸福に関与できるような人間ではなかったのだと、僕には 氷河に愛される資格も権利もなかったのだと思い、身を引く決意をすることもできる。 でも、何も言わずに姿を消されてしまったら、僕は希望を持ってしまうではありませんか。 氷河は本当は僕を愛してくれていて、でも何か僕には言えないような事情があって、僕の前から姿を消さないわけにはいかなかったのだと。 氷河と過ごしたひと時は、僕にとっては本当に素晴らしいものだったから。 僕が氷河にとって期待外れな人間だったのだとしても、僕にとっての氷河はそうではなかったのだから。 こうして、氷河への手紙を書いている間にも、僕は氷河からの優しい返事を期待しています。 そして、同じくらい不安を感じてもいる。 氷河が言いたくないことは言わなくても構いません。 ただ、氷河が今どこにいるのか、それだけは教えてください。 僕は氷河に会いたいんです。 会いたいの。 このまま氷河に会えずにいたら、きっと僕は死んでしまう。 こんな不安を感じるのは、生まれて初めてのことです。 痛みや悲しみは――死の恐怖さえも――これまで僕は、自分には縁のないものだと思っていました。 でも、今は氷河が側にいてくれないことが悲しくて寂しくて、胸が痛み、生きていることさえ苦痛です。 もう一度 僕を抱きしめてほしいなんて、図々しいことは言いません。 氷河が僕に幻滅したというのなら、そんなことを望んでも意味のないことでしょう。 でも、会いたいんです。 ただ、会いたいの。 でないと、僕は死んでしまう。 お願いです。 今 氷河がどこにいるのか、それだけは教えてください。 氷河からの手紙を僕の許に持ってきてくれた使いの人に、この手紙を託します。 返事を受け取る話は聞いていないと言っていた彼を無理に引きとめ、僕が この手紙を書き終えるのを、今 階下のロビーで待ってもらっています。 彼に、僕宛の氷河からの手紙をどういう経緯で預かることになったのか、根掘り葉掘り訊いてしまいました。 ごめんなさい。 彼は、たまたま立ち寄ったパブの店主に、氷河からの手紙を託されたと言いました。 その店主に尋ねても、やはり同じようなことを言うのでしょう。 たまたま店にやってきた誰かに頼まれたのだと。 幾人もの人の手を経て、氷河の手紙は このホテルにまで届いたようですね。 この手紙が氷河の許に届くことを祈っています。 そして、僕からの未練がましい手紙を受け取っても、この手紙を運んだ人を責めないでやってください。 僕が無理を言って頼んだのですから。 お願い、氷河。 『親愛なる瞬』なんていう言葉はいりません。 今あなたがどこにいるのか、それだけは教えてください。 僕の心を殺してしまいたくないと、氷河が少しでも思ってくれているのなら。 生まれて初めて恋した人に抱きしめられた翌日にその人の姿を見失い 途方に暮れている非力な子供を、少しでも哀れと思うのなら。 氷河。 お願いですから、今はまだ 僕を殺さないでください。 |