その日以降、瞬は名家のご令嬢たちからの誘いを丁重に断るようになった。
とはいえ、それで瞬の連日の外出が止まったわけではなく、瞬は今度は氷河と連れ立って あちこちに出掛けていくようになったのである。
氷河は決して好き好んで巨大な真っ赤なリボンをつけたわけではなかったらしく、彼は、連日、瞬の意識から深紅のリボンの印象を消し去るべく、懸命に努めていた。
つまり、氷河は瞬との外出の際には やたらと外見に気を遣っていた。

そのために、氷河は、某グラード財団総帥に資金を提供させ、一般人が身に着けるような服を(?)急遽取り揃えたらしい。
硬い線のスーツからカジュアルなデニム、シャツ、ジャケット――赤い巨大リボンで失墜したイメージの回復を図っているのだろう氷河の洋服のセレクトは、そのどれもが 殊更 男らしさを強調したものだった。
星矢や紫龍は、正直なところ、今更イメージアップを図っても、あのリボンの強烈な印象を払拭することはできないだろうと思っていたのだが、そこは武士の情けで、あえてその考えを言葉にすることはせずにいたのである。

瞬は、瞬との外出のために めかしこんだ氷河の姿を見るたびに必ず、
「氷河って、何を着てもかっこいいね」
と言って、その出で立ちを褒めていた。
だが、そう言った側から、携帯電話の待ち受け画面にセットした真っ赤なリボンつき氷河の図を見ては、嬉しそうに くすくすと笑うことを繰り返してもいた。
瞬の目には、アルマーニのスーツを着た氷河より、赤いリボンを頭に載せた氷河の方がずっと好ましく映っているのかもしれないと、星矢たちは思っていたのである。

ともあれ、瞬の逆タマ話はそれで立ち消えになり、同じ試練を乗り越えて聖闘士になった幼馴染みたちは、男子水入らずで、会えずにいた数年間のブランクを埋めるように新たな友情を育むことを始めたのだった。






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