「おまえ、なんで瞬に言わねーんだよ。おまえが好きなのは瞬だって。おまえ まさか、どっかの一神教の神サマの禁じたことだからなんて馬鹿な理由で、瞬への告白を躊躇してるわけじゃないだろうな? だとしたら、それは馬鹿なことだぞ。神サマなんてのはさ、その時々で自分に都合のいい神サマを連れてきて、うまく利用すりゃいいんだよ。日本はそれが許される国なんだから。この件に関する おまえの神サマは、性的紊乱を極めた 大らかにも程があるギリシャの神様方。そういうことにしとけば、何の問題もない」
「瞬が犠牲的精神を発揮させて、おまえの前に身を投げ出してきたら、その時に告白――という展開を狙っているのだとしたら、それを期待するのには かなり無理があるぞ。瞬は、おまえの綺麗な恋を綺麗なままにしておくことが、おまえの友人としての貴い務めだと思い込んでいるようだ」

すっかり無口になってしまった瞬の様子を見て、思っていた以上に氷河の恋がおかしな方向に向かい始めているらしいことに、星矢と紫龍は気付かないわけにはいかなかった。
そして、実は、星矢と紫龍は、道徳的倫理的に多少 問題はあっても、氷河の恋が成就することこそが、この事態への最も平和的な決着のつけ方だろうと考えていた。
だから二人は、翌日、氷河に、彼等なりの激励と助言を垂れたのである。
仲間たちの激励と助言に、氷河が自嘲気味な笑みを浮かべる。

「そういう策を講じて、瞬を手に入れようとした俺が間違っていた。そういう姑息は、どこまでも真善美を全うしようとする瞬の意思には太刀打ちできないようだ。綺麗な恋を汚すなと、瞬は言っていた。待てるだけ待てと」
「それは、瞬の潔癖が無責任に言わせる、極めて非現実的な解決方法だろう」
「しかし、瞬が待てと言っているんだ。俺は 瞬の好みに適った解決方法に従うさ。惚れた弱みだ」
「……」

本音を言えば、氷河はそうするしかないだろうと、星矢は思っていたのである。
氷河が瞬を諦められないというのであれば、氷河はそうするしかないだろうと。
だが、その決着のつけ方は、考えようによっては、どこまでいっても絶望しかない世界で生きることと ほぼ同義。
星矢は、さすがに、そんな試練と苦難の道を仲間に歩んでほしいとは思わなかった。

「なあ、おまえ、一度でも瞬に好きだって言ったことあるか? おまえと寝たいって」
「一度もないな。俺が そういう希望を瞬に伝えたところで、その行為は全く意味がないことだ。他の誰かが相手だというなら いざ知らず、相手が瞬では……俺がどれほど強く そうなることを求めても、瞬が望まない限り、俺が瞬とそういうことができるようになることは まずありえない。100パーセント無理な話と言っていいだろう。俺は無意味なことはしない主義だ」
「あの瞬が自発的に その気になる可能性なんて、それこそ99.99パーセントないことだと思うぞ」
「残りの0.01パーセントに賭けるさ。俺は希望の聖闘士だそうだし」
「……」

正しく清らかな恋を貫くために、人は これほどまでの苦難と忍耐を受け入れなければならないものなのか。
希望の聖闘士の 呻きにも似た苦しげな声と言葉に、星矢と紫龍は、どうにも得心できない面持ちで唇を引き結ぶことになった。






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