瞬王子は、その日から すっかり氷河のことを信用してしまったらしく、時折氷河が不機嫌な顔になるのも、彼が真面目に仕事をしようとしているせいだと考えているようでした。
実際、氷河は、自分に任された仕事に、至極真面目に取り組んだんですよ。
人を一人、見守り育てるということは、とっても重要で有意義な仕事ですしね。
瞬王子の清らかさを損なわず、優しい心を損なうことのないように見守り続けることは、とても意義あることなのかもしれないと、氷河は考えるようになっていきました。

それに。
今はまだ政治に携わっていなくても、瞬王子が やがて国政の一翼を担うことになるのは確実なこと。
万一 一輝国王が子を残さずに みまかったら、瞬王子が 帝国の王になることだってありえるのです。
それどころか、今日 一輝国王が階段ですべって転んで死んでしまったら、明日からこの国の支配者は瞬王子になるのです。
その重大な事実に、瞬王子の侍従長になってまもなく、氷河は気付きました。
ちらっと、ウマの合わない一輝国王を暗殺する考えが氷河の脳裏を横切ったりもしたのです。
氷河が その考えを実行に移さなかったのは、北の公国の民が、帝国の援助によって生き延びたことが疑いようない事実で、そして、瞬王子が兄君を心から慕っていることがわかったからでした。

氷河が時折 八つ当たりのように、瞬王子の兄君のやり方を批判すると、瞬王子は兄君の考えを的確に説明してくれました。
それは、大帝国の統治者としては当然のことなのだと。
瞬王子の説明は、自分の考え方は小国の公子の視点に立ったものにすぎないのだと、氷河に得心させるだけの説得力を持つものでした。
とはいっても、瞬王子は、氷河の考え方を否定することはしません。
瞬王子は、兄君の立場に立って世界を見、考えることと、氷河の立場に立って世界を見、考えることの両方ができる聡明さを持っていました。
その聡明さを生むものが、小ざかしい知恵や知識ではなく 思い遣りや優しさだということが、氷河には大変好ましく感じられたのです。

その上、瞬王子は、その姿も美しく可憐。
その可憐な瞬王子が、無防備と言っていいほど まっすぐに、彼の新しい侍従長を信頼してくれているのです。
そして、二人はいつも一緒。
美しい二人が恋に落ちるのに、長い時間はかかりませんでした。






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