僕は――変なことですけど、自分に大きな欠点があるって、氷河に言われて安心したんです。
『傍迷惑だ』って言われて、ほっとした。
ほっとして――そして、氷河の言うことを、少しは信じてもいいかなって思った。
氷河の言うことは 事実から かけ離れたことばかりでしたし、氷河が僕のことを好意的に誤解しているのは確かなことでしたけど、でも、氷河の言うことには、妙に具体的な例や 反論できない論拠もあって、氷河は僕という人間の大部分を誤解しているにしても、その言葉には ちょっとだけなら事実も含まれているんじゃないかって、そんなふうに思えてきて――。

氷河は、僕を好きだって言ってくれた。
その理由も示してくれた。
誤解されている部分は多いにしても、氷河の誤解の中に、少しくらいは――少しくらいは事実だって含まれているかもしれない。
僕は、ちゃんと氷河の誤解を誤解だって言ったのに、氷河は氷河の意思と判断力で、自分の認識を改めなかった。
だから、もしかしたら――もしかしたら、僕が氷河を好きになっても、氷河はそれを不快に思ったりしないのかもしれないって 思ったんです。
そうなの? って、僕は氷河に訊いた。
そしたら、氷河は、僕が氷河を好きになったら、自分は世界一 幸せな男になるだろうって、すごく嬉しそうに言ってくれた。

氷河にそう言ってもらえた時、僕は初めて気付いたんです。
僕は、兄さんにも仲間たちにも迷惑ばっかりかけている泣き虫の弱虫だけど――でも、たくさんの人が僕を愛してくれていることを知ってました。
兄さんも仲間たちも、お荷物でしかない僕に いつも優しかった。
僕は、彼等を愛し返したかったんです。
彼等が僕を愛してくれるのの百倍も千倍も、僕は彼等を愛したかった。
でも、僕にはそんな権利はないと思ってたんです。
僕なんかに愛されても、迷惑に思いこそすれ、それを喜んでくれる人なんかいないって。
誰も、ちっとも嬉しくないだろうって。

でも、氷河は、僕に、好きになってくれって言ってくれた。
好きになってもらえたら嬉しいって、言ってくれた。
僕は――僕が欲しかったのは、何より欲しかったのは、僕が愛してもいい人だったんです。
僕は誰かを愛したかった。
僕に愛されても迷惑じゃないって言ってくれる人が欲しかった。
氷河は、そうしてもいいよって、僕に言ってくれたんです。
だから――僕は、その瞬間から、氷河なしでは生きていけない僕になったんです。

氷河は優しくて、綺麗で――氷河を好きになってからの僕が どんなに幸せな人間だったか、あなたにわかるでしょうか。
僕は、生まれて初めて、僕が愛してもいい人を手に入れたんです。
生まれて初めて、愛してほしいと、人に望まれた。
僕は、誰に どんな遠慮することもなく、氷河を愛せる。
だって、氷河が、そうしてもいいって 僕に言ってくれたんだから。

僕は、氷河のためなら何だってするって思った。
ただ、氷河が僕を好きで、僕が氷河を好きだから。
二人の間には、どんな義務もない。
氷河は、愛さなきゃならないから僕を愛してくれるわけじゃない。
僕も、それは同じ。
僕たちは、僕たちがそうしたいから、お互いにお互いを好きでいるだけなんです。

氷河に抱きしめられた時も、僕は ちっとも怖くなかった。
ただ、本当に僕なんかでいいのかって、卑屈な気持ちが また頭をもたげてきて、それが不安だったけど。
でも、氷河がそうしたいって言うんだし、僕が気に入らなかったら、氷河はすぐに僕に見切りをつけることができるんだからって、自分を励まして、勇気を奮い起こして、僕は 氷河が差しのべてくれた手をとった。

気持ちよかった。
氷河に『あんまり楽しくなかったから、もうやめよう』って言われたらどうしようかと思うくらい、氷河に触ってもらって、抱きしめてもらうのは気持ちよかった。
氷河と一つになるのは、信じられない奇蹟に思えた。
その奇蹟の中で、僕は すっかり夢見心地。
幸い、氷河は、それで僕を嫌いになったりはしなくて、それから僕たちは毎日抱き合って眠った。
僕は氷河と一緒にいられて、とても幸せで――。

ああ、やだ。
僕、何を言ってるの。
すみません。
すみません、女の人にこんな話……。
僕、今、どうかしてるんです。
僕、目が眩みそうなくらい幸せだったから。
自分が正気でいるのかどうかも わからないくらい幸せだったから。
生まれて初めて人を好きになって、その人と いつも一緒にいられて、何度も好きだって言ってもらえて、僕は本当に――僕なんかが こんなに幸せでいていいんだろうかって恐くなるくらい、幸せだったの。






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