「よくやったな」
アンドロメダ座の聖衣を手に入れたと 瞬当人が報告する前に、瞬の暗い顔を見て結果を察していたのだろう。
氷河はそう言って、ほとんど喜色を表に出せずにいた瞬のために微笑んでくれた。
臆病で煮え切らない仲間のために大人になった氷河の瞳を見上げ、瞬は小さく頷いたのである。
「うん……」
もう、共に修行を積んできた仲間を倒したことを後悔してなどいられない。
これでよかったのだと思うしかない。
聖闘士になることどころか生き延びることさえ不可能と思っていた自分が、こうして生き延びて聖衣を手に入れたことを、瞬は心のどこかでは確かに喜んでいた。
その気持ちに嘘はつけない。

「これで、会えるね。生きて、日本で」
「ああ」
「嬉しい。本物の氷河に会えるんだ」
実際に言葉にすると、その嬉しさが実感となって身体の隅々にまで行き渡る。
共につらい修行に耐えてきたライバルに打ち克ち、聖衣を手に入れたことを喜んでいる自分自身を、瞬は覚悟を決めて喜ぶことにした。
6年の時を経て、自分はついに 氷河に――夢の世界ではないところで、本物の氷河に会うことができるのだ――と。

「あの……本物の氷河も、こんなふうに綺麗――ううん、格好よくなってるのかな?」
6年もの間、一緒に つらい修行に耐えてきたというのに、二人はこれまで そんなことを確認し合ったことがなかった。
ここは夢の世界なのだということを改めて思い出し、氷河の目に映っている自分が 6年前の子供の姿のままだったならどうしようと、瞬は、今更ながらなことに当惑したのである。
「おまえには、俺がどんなふうに見えているんだ」
「氷河は、子供の頃よりずっと背が高くなってるよ。髪や瞳の色は子供の頃のままだけど、表情は大人びて――あの……言うと怒るかな。すごく綺麗になった」
「おまえほどじゃない」
「え……」

幸い、氷河の目に映っている瞬の姿は 幼い子供のそれではないようだった。
氷河ほどではないにしろ、6年前に比べれば20センチ以上 背が伸びた瞬の身体を、その高さを認識している氷河の腕が抱きしめてくる。
6年もの間、一緒に つらい修行に耐えてきたというのに、それは 二人の初めての抱擁、初めてのキスだった。
「氷河……」
共に修行を重ねてきた仲間を倒すことまでして手に入れた聖衣、数え切れないほどの涙の雫と苦難の末に生き永らえた命。
喜んでも、それは罪ではないと、氷河の腕と唇は、瞬を優しく諭してくれた。

「会えるね……今度こそ、本当の本物の氷河に。僕は、生き延びたんだ」
氷河の胸の中で目を閉じて、瞬は、6年の時を費やして ついに手に入れたものたちを、初めて心から受け入れることができたのである。






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