「誓約書に書いた誓いを破ってしまったな……」
シュンを求める心を止めることは不可能だったし、シュンを自分のものにしたことを後悔もしていない。
この細い身体に、欲望に燃えたぎった男を受け入れ、その身体の内と外で恋人を満足させてくれたシュンを、手放す気はないし、もう離れられない。
しかし、ヒョウガには、自分が 恋の激情に流されたという自覚があって、二人の未来がどうなるのかを思索する力も残っていた。
叔父は何と言うか、国王はどう出るか。
誓約書を盾に取って、国王はヒョウガに与えたものを取り上げ、場合によっては その命を奪うことさえできなくはないのだ。

「でも……」
可愛い妻が白く細い指を、夫の腕に絡めてくる。
「でも?」
「あの誓約書には、フランス国王息女の身体に触れないって書いてあったでしょう。僕は父の息女じゃないよ」
「なるほど。そういう逃げ道があったか」
シュンは、共に陰謀や詐欺を企むにも 得難い才の持ち主である。
自分の狡獪を全く自覚した様子もなく、ただ嬉しそうに うっとりと恋人の顔を見上げているシュンに、ヒョウガは念を押した。
「本当に、おまえに野心はないんだな? 国王になりたいとか、王の子として認めてもらいたいとか」
シュンがすぐに頷いてくる。
「僕はヒョウガと一緒にいたい。王位も地位も 誰の承認もいらない。父には王妃様を大事にしてほしいと思う。僕はヒョウガだけがほしい。他にほしいものなんて何一つない」

人に触れられた経験が少なかったせいか、シュンはヒョウガの手荒さや抑えのきかなさを、強い愛情によるものだと誤解したらしく(それは完全に誤解とは言い切れないものではあったが)、その身で受けとめることになった痛みさえ――むしろ その痛みを喜んでいるようなところがあった。
痛ければ痛いだけ、自分はヒョウガに愛されているのだと信じている節があった。
いずれ、その誤解は解かなければならないだろうが、今はその誤解がヒョウガには有難かったのである。
「俺なら、いくらでもくれてやる」
再びシュンの脚を膝で割り開き、そのまま体重をかけていく。
シュンは為されるがまま――むしろ、自分からヒョウガに腰を押しつけてきた。

幸い、シュンの存在は公には知られていないのだ。
何とかなるだろう。
二人はこんなに愛し合っている――愛し合えている。
シュンの中の熱さに翻弄されながら、ヒョウガはそう思うことにしたのだった。






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