「──これは何? どういうこと?」
二人の男子による 実に堂々としたラブシーンの迫力に、驚くことさえ忘れ、半ば呆然として 彼等の姿を視界に映しているばかりだったマイヤが、何とか気を取り直し、言葉を発することができるようになったのは かなりの時間が経ってから。
氷河と瞬がこうなることを マイヤほど慮外のこととは思わず、むしろ予想通り、それどころか期待通りでさえあった星矢と紫龍は、すぐさま彼女のフォローに入ったのである。
経緯はどうあれ、そして彼女の真意はどうあれ、理想の人として若い男に崇め奉られていた(はずの)一人の女性が、実は その男に一個の人間として認められてもいなかった事実が判明してしまったのである。
その気はなかったのだとしても、マイヤがその事態を快く楽しいものと感じるわけがないのだ。

「ねーちゃんのおかげで、カップルが一組成立したってことだよ。これまで氷河と瞬は、くっつきそうでくっつかず、俺たちをいらいらさせてばっかりいたんだぜ。それを ほんの数日で くっつけちまうなんて、ねーちゃん、大手柄だぜ!」
マイヤの大手柄によって ほんの数日でくっついた二人が、なるべく彼女の視界に入らないよう 身体の位置を調整しながら、星矢がマイヤを褒め おだてあげる。
星矢の手放しの賞賛を、しかし、マイヤはあまり喜んではくれなかった。
「何か素直に喜べないんだけど……。私は、若くて綺麗な男の子が 私を恋い慕ってくれているんだと思って悦に入っていたのよ? 瞬ちゃんは 下にも置かない勢いで私の機嫌をとってくれるし、だから、私はすごく いい気分でいたのよ? なのに、それがみんな ただの誤解と間違いで、私を慕ってくれていたはずの二人が二人とも、実は私のことを気にかけてもいなかったなんて、まるで私は ただの間抜けなピエロじゃないの」

実に全く その通りである。
事実はそうなのであるが、その事実を事実にするわけにはいかない。
相手は沙織の大事な客人。
たとえ そうでなかったとしても、彼女は どんな悪意も持たず、どんな悪事も働いていない善良な一般市民なのだ。
アテナの聖闘士にして、城戸邸の居候である星矢たちは、彼女を間抜けなピエロにするわけにはいかなかった。
「そんなことはない。俺たちが手をこまねいて見ているしかなかった事態を、見事に解決してのけたんだ。あなたは、自分の仕事ぶりを 誇りに思っていい。氷河と瞬も、あなたには心から感謝しているだろう」

「誇りに思えって言われても……」
氷河と瞬は、どう見ても、彼等の月下氷人に感謝の念など抱いていない。
それどころか、彼等は、同じ部屋の中に彼女がいることを意識すらしていないように、大胆に抱き合い、二人で何やら囁き合っては楽しそうな笑い声を洩らしている。
互いの心を確認し合った恋人同士は、今は その目に自分の恋人の姿しか映していないようだった。

「まあ、嘘みたいに綺麗なカップルだから、見ていて悪い気はしないけど」
覆しようのない現実が、頑として目の前にあるのだから、あれこれ文句を言っても仕様がない。
結局、マイヤは、星矢や紫龍が言うように、自分が成し遂げた偉業を認め 受け入れ、その結果に満足するしかなかったのだった。






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