「そんな……。氷河が僕を好きだって言ってくれたら、付き合ってほしいって言ってくれたら、僕、そんなテストみたいなことしないで、すぐに『はい』って答えるよ」 紫龍のご注進に、瞬は大いに戸惑ったようだった。 戸惑いながらも、きっぱりと氷河の努力を無意味と断じる。 紫龍は、瞬のその答えを確かめると、ほとんど二人の仲間としての義務感に燃えて、瞬の不安と当惑を盛大に煽ってやったのだった。 「しかし、氷河は、詩の暗誦テストをクリアしないと、おまえと付き合う資格が得られないと決めつけているようだったぞ。あの様子では、しばらくは告白も お付き合いも延期先送りだな」 「し……しばらくって、どれくらい?」 「最低でも、城戸邸の図書館にある詩集はすべて読破する気でいるようだったが……。ここには詩集の類はあまり揃っていないから、そのあとは 手に入る詩集を片っ端から購読――ということになるんじゃないか」 「そんな! この世界にどれだけ詩集があると思ってるの!」 「1日に10冊読んで、10年もかければ、ある程度 名の知れた詩人の詩集は おおよそ読み終えることができるんじゃないか?」 「じゅ……10年……?」 瞬の声と瞳が、絶望的な響きと色を帯びる。 紫龍は そんなことには気付かぬ振りをして、あくまでも どこまでも 友情を重んじ思い遣りをたたえた仲間の姿を装い、氷河の努力を受け入れるよう、瞬に忠告してやったのだった。 「氷河には失敗の許されない一世一代の告白だ。奴の人生がかかっている。やり直しはきかないと考えているだろうし――氷河は 満を持して臨みたいんだろう」 「で……でも、僕は――」 紫龍の忠告に物言いたげに、瞬が その眉根を寄せる。 紫龍はもちろん、それにも気付かぬ振りをした。 なにしろ彼は、義と友情のためになら、その命をかけることもできる男だったので。 |