『俺は何もしていない』と、ヒョウガは一応、エティオピアの王宮にあがることを遠慮したのである。
それでも結局 彼がエティオピアの王城に入ったのは、シュンにそっくりだというエスメラルダ姫を見てみたかったから。
そして、シュンの兄を見てみたかったから。
なにより、シュンとの別れの時を1秒でも先に延ばしたかったからだった。

エスメラルダ姫は確かにシュンに似ていた。
優しい心を映し出す瞳と表情を持っていた。
だが、シュンの溌剌、シュンの機知、シュンの豪胆さは供えていない。
そういった要素は、むしろシュンの兄が有していた。
もっとも、シュンの兄は、シュンとは似ても似つかない、無骨な武人の佇まいをした男だったが。

そんな二人を見た時に、シュンがどうしても この二人を結びつけたいと願った訳が、ヒョウガにはわかったような気がしたのである。
シュンの優しさと美しさ、シュンの勇気と豪胆。
この二人が結びつくことで、エティオピアは初めて、シュンの代わりを務められる人材を得ることになるのだ。
初めて弟として本物のアンドロメダ姫と対峙したシュンの兄は、ひどく複雑そうな目を、彼の美しすぎる弟に向けていた。

「僕、どんなご褒美でもあげるって、ヒョウガに約束したの。兄さん、僕を嘘つきにしないでね」
そう言って、シュンは、旅の相棒を未来のエティオピア王夫妻に預けた。
ヒョウガは、だが、その時にはもう わかっていたのである。
ヒョウガに危険な旅の道連れを強いた者としての義務を果たしたシュンが、兄とエスメラルダ姫の居場所を確かなものにするために、その日のうちに この城を出るのだろうことが。
未来のエティオピア王からの褒美など ほしくはない。
ヒョウガは、もちろんシュンを追いかけた。






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