「では、千葉県警本部本部長 並びに、交通部部長、及び 警視庁交通部部長から 報告させていただきます。現在、日本国内のみならず国際的に話題になっているシンデレラ姫が どこのどなただったのかが判明いたしました」
その発表が午後6時から行なわれたのは、民放各局の夕方のニュースと 日本の公共放送を担う某特殊法人放送局の7時のニュースに採り上げられることを狙ったためだったらしい。
もちろん、その狙いは当たり、その日 多くの日本国民は夕方6時から深夜に至るまでニュース番組の梯子をし、ニュース番組の視聴率はどの局も通常時の4倍から5倍を記録することになったのである。

「ご家族のご希望で本名は伏せさせていただきますが、シンデレラ姫は都内在住の高校生でした。そして、まことに残念なことではありますが、彼女は千葉県Dランド付近で起きた あの事故の3日後、別の交通事故に巻き込まれ、その際に負った怪我が原因で亡くなっていたことがわかりました。ずっと生死の境をさまよっていて、ご家族は病院に詰めていたため、こんな騒ぎが起こっていることを ご存じなく、そのため名乗り出るのが遅れたのだそうです。昨日 警視庁交通部の方に ご家族――いえ、ご遺族の方が ご連絡をくださり、そのため この発表は千葉県警と警視庁合同のものとなっています。ご連絡をくださった ご遺族からお借りしてきたシンデレラ姫の写真、残されていた靴で、ご報告いただいた高校生がシンデレラ姫ご本人だという確認も取れました。こちらが、ご遺族から ご提供いただきましたシンデレラ姫の写真になります」
「おおー!」
「これは……」

プレス発表会場で あがった どよめきは、シンデレラ姫の不幸を嘆くものだったのか、それとも 警視庁交通部部長が提示した写真への驚嘆だったのか。
バックに百合の花はなく、身につけているものも 何の変哲もない白いブラウス一枚だけだったのだが――否、だからこそ――“本物”の持つ力はCG技術を駆使して製作された人工の画像のそれとは段違い。
可愛らしく見せようという作為がないことが、逆に、写真の中の瞬を驚異的に可愛らしい少女にしていた。

「シンデレラ姫はまだ16歳だったそうです。ご遺族は、とても心の優しい子だったとおっしゃっていました。学業も優秀で、友人も多く、将来を楽しみにしていらしたそうです。そして、ご遺族は 交通ルールを守らない人たちが許せないと、涙ながらに訴えられ――我々も、若くして その命を断たれたシンデレラ姫の無念を思うと、痛恨の思いを拭い去れません。実に悔しい――悔しくてなりません」

シンデレラ姫が死んでいないことを知っている者たちの目には、千葉県警と警視庁の狙いは露骨に思えるほど明瞭にして歴然たるものだった。
沙織の提案した猿芝居の計画に彼等が乗ったのも 至極当然。
彼等の狙いは、一人の薄幸の美少女の死を契機に、日本国民の交通安全に対する意識を高め、交通事故を撲滅すること。
そして、彼等の狙いは見事に当たった。
おそらく、この馬鹿げた芝居を打った者たちの想像をはるかに超えて。
何といっても、事故の犠牲になったシンデレラ姫が可愛らしすぎたのだ。

年明け早々、こんな可愛い子が死ぬなんて許せない。
これは人類の大いなる損失である。
スピード違反をする者たちは、即座に免許停止にするべきだ。
彼女の霊に約束する。俺は一生 自動車も自転車も持たない。
等々、中にはかなり無理無責任な意見もあったが、ともかく交通法規違反者への批判が沸騰。
シンデレラ姫の遺族が、JPN自動車工業から渡された500万の謝礼金をすべて交通遺児育英基金に寄付したことが また評判になって、スピード違反者や酒気帯び運転者への風当たりが強くなり、法改正の動きまで出るありさま。
その上、日本国内では死亡者の肖像権保護期間が法律で明文化されていないのをいいことに、本物の瞬の写真は、インターネット、印刷物を問わず、また個人のみならず企業、団体、公的機関においても転載掲載されまくることになったのだった。






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