瞬とのデートの一番手(アフロディーテを一番手とすると二番手)は、獅子座レオのアイオリアだった。 「アイオリアはね、そもそもエスコートの基本ができてないの。僕の右に立ったり、左に立ったり、自分がどういう時に どこに立つべきか、歩く速度、自分がどういうことに注意を払うべきかが全然 わかってない。おかげで、僕、街中で何度も男の人に声をかけられることになったんだよ。二人連れだって認識してもらえる場所に、アイオリアがいないんだもの。氷河と歩いてる時、道を尋ねてくる人はいても、お茶に誘われたことなんて、僕、これまで一度もなかったのに。それに――わざわざ苦労してチケットを取ってくれたらしいけど、ローマ時代のコスプレ剣闘士の格闘イベントなんて、あんなの聖闘士が見て楽しめるわけないでしょう。食事もね、いくら おなかがすいてたとしても、普通 デートで お昼からステーキなんか食べる? 少なくとも僕は食べる気がしなかったよ。28点」 「アフロディーテより下かよ!」 人を傷付けることは嫌いでも、だからといって事実を曲げて点数を上乗せし、温情を示すことで人を傷付けないことも、瞬にはできないことであるらしい。 瞬の採点は、あくまで厳格かつシビアだった。 二番手(アフロディーテを一番手とすると三番手)は、水瓶座アクエリアスのカミュ。 「楽しかったよ。氷河の子供の頃の話をいっぱい聞かせてもらって。最初はエル・グレコの絵画展に行く予定だったんだけど、カミュが興に乗ってきて、急遽 予定変更したの。食事が今ひとつだったかな。ギリシャで美味しいフランス料理を食べようっていうのが そもそも間違ってるよね。食事じゃなくて、デザートだけでよかったのに。昼からディナー並みのフルコースは ちょっと つらかったかな。でも、お話は楽しかったから60点。最初から最後まで ずっと 僕の聞きたい話をしてくれたから。ただ、あれが氷河の話でなく シベリア海のクリオネの話だったりしたら、熱心すぎるのが不気味で、僕、逃げ出していたかもしれない」 「ずっと氷河の話だけしてたって、それ、デートって言わないだろ。むしろ、食事付きの父母面談っていうか、父母懇親会っていうか――」 「あ、そうかも。氷河のことばかり話してて、僕のこともカミュのことも全然話題にならなかったから」 「それ、絶対デートって言わねー」 結局、カミュは番外の参考成績60点ということで落ち着いた。 三番手(アフロディーテを一番手とすると四番手)は、蠍座スコーピオンのミロ。 「赤紫のジャケットだったんだよ! シャツならまだしも、ジャケットが! 信じられない……。僕、チンドン屋さんと一緒に街を練り歩く趣味なんかないよ。ひどい悪目立ちで――それに、あの爪! 昔の権力者の女性たちが つけ爪をつけていたのは、自分が家事なんかしなくていい立場の人間だっていうことを示すためでしょう。つまり、怠け者の証明だよ。聖闘士がそんな証明して何になるの。ほんと、氷河の爪の垢でも煎じて飲ませてあげたいって思っちゃった。まあ、それは無理なことだから諦めるけど。氷河の爪って、いつもすごく綺麗なんだよね。清潔だし、伸びすぎてることもないし、とにかくミロは15点」 「アフロディーテの半分かー……。赤紫のジャケットの威力ってすげーな!」 四番手(アフロディーテを一番手とすると五番手)は、乙女座バルゴのシャカ。 「あの人、デートの意味がわかってない。一緒にいる人と楽しい時間を過ごそうっていう気が、あの人には かけらもないの。僕は別に 氷河が講義で言っていたみたいに、僕の靴を舐めろなんて言うつもりはないけど、僕が一人の人間で、心があって、気分があって、快不快を感じることのある人間だってことくらいは意識していてほしいじゃない。なのに、シャカは 一人よがりの極致で……仏教の話なんかどうでもいいの。無明から生まれる恨みだの、執着の放棄だの、世界は空だの、そんなことに僕は興味ないの。一緒にいる人間を見ずに、一人で自分の世界に浸って滔々と語られたって、そんな言葉、少しも心に響いてこない。逆に、神と仏の区別もついていない人が なに言ってるんだって思っちゃう。氷河なら、いつも僕を見ててくれて、見てないように見える時も見ててくれて、だから一緒にいて安心できるのに、シャカは そういうところが全然ないんだもの。12点」 「点数、どんどん下がってくな……。それに、なんか、おまえ疲れてきてないか……?」 「……そんなことないよ。仮にもアテナの聖闘士が、デートの一つや二つくらいで疲れたりなんかするはずない……」 「そうかぁ……?」 見るからに無理に作った笑顔とわかる笑顔で 星矢にそう告げる瞬の声は、完全に日々の生活に疲れきった人間のそれだった。 |