瞬王子がお陽様の光を浴びてしまったことは、すぐに 王様や お后様、一輝王子やエティオピア王宮の家臣たち、侍女たちの知るところとなりました。 アルマク伴星の妖精が、自分の呪いが成就したことを喜んで、ご親切にも お城中に ふれまわってくれましたから。 慌てて瞬王子の館に飛んできた王様たちは、塔の小部屋の中に これまでとどこも変わったところのない瞬王子の姿を見い出して、ほっと安堵の胸を撫で下ろしました。 こういう時は大抵、呪いをかけられた人間は、カエルとかロバとかコウノトリとかに変身させられるものですからね。 けれど、瞬王子はカエルにもロバにもコウノトリにもなっていませんでした。 「なんだ、何も変わっていないではないか」 と王様は言い、一輝王子も その心を安んじました。 でも、お后様は、瞬王子の身に何が起こったのかに気付いたのです。 気付いて、天を仰ぎ、嘆きの声をあげました。 「ああ、なんてこと! 私の瞬王子が お姫様になっている!」 「は……?」 こういうことは女性の方が鋭く、反応も早いものなのでしょうか。 王様や一輝王子、家臣たちは、お后様の嘆声を聞いても しばらくぽかんとしているばかりでしたが、侍女たちはすぐに真っ青になって お后様の周囲に集まり、お后様を支えたり、仲間同士で嘆き合ったり。 男性陣が お后様の嘆きの訳を理解するようになるまでには かなりの時間がかかりました。 『16歳になる前にお陽様の光を浴びてしまうと、瞬王子は大変な災難に見舞われ 不幸になる』 それが、アルマク伴星の妖精の呪いでした。 何ということでしょう。 瞬王子はアンドロメダ座アルマク伴星の妖精の呪いで、アンドロメダ姫になってしまったのです。 目覚めている間はアンドロメダ姫、眠っている時だけ本来の瞬王子に戻れる――という呪いが、瞬王子の身に降りかかってしまったのです。 状況が把握できると、王様とお后様は すぐさま アルマク主星の妖精に助けを求めました。 けれど、アルマク主星の妖精は、自分にはどうすることもできないと、悲しそうに言うばかり。 地球から見れば大きく明るいオレンジ色のアルマク主星は、地球の近くにあるから そう見えるだけで、実は 遠くにあるせいで小さく見える青緑色のアルマク伴星の方が、主星よりずっと大きく力のある星なのだそうでした。 アルマク主星の妖精は、瞬王子のアンドロメダ姫に真実の愛を捧げる者が現われれば 呪いは解けると、こういう時のお約束を王様たちに教えてくれただけでした。 そのお約束を聞いて、その場にいた者たちは皆 大きく深い溜め息を洩らすことになったのです。 元が花のように美しい瞬王子でしたので、アンドロメダ姫は大層美しい姫君でした。 アンドロメダ姫に真実の愛を捧げる王子様は いくらでも見付けられそうでした。 いいえ、わざわざ見付けに行かなくても、美しいアンドロメダ姫に出会ったら、それこそ世界中の王子様たちが愛でも心でも喜んでアンドロメダ姫に捧げることでしょう。 ですが。 そうして アルマク伴星の妖精の呪いが解けてしまったら、アンドロメダ姫は瞬王子に戻ってしまいます。 そして、真実の愛を捧げた王子さまと、真実の愛を捧げられた王子様――すなわち、二人の王子様が その場に出現することになるのです。 大抵の王子様は、お姫様を好きなもの。 王子様を好きな王子様はあまりいません。 いたとしても、その王子様は何かと危険です。 かといって、アンドロメダ姫に真実の愛を捧げてくれるお姫様がいるかというと、それは あまり期待できません。 自分より綺麗なお姫様なんて、普通のお姫様には ちょっと微妙な存在です。 もし、アンドロメダ姫に真実の愛を捧げるお姫様がいたとしても、それはそれで やっぱり とっても危険です。 そんなこんなを考えて、王様、お后様、一輝王子、そして瞬王子の館に集まってきた家臣たち、侍女たちは、途轍もなく不安になってしまったのです。 瞬王子の呪いは一生解けることがないのではないかと。 瞬王子が お陽様の光をいくらでも浴びられるようになったこと。 それだけが、この呪いの成就によって生じた唯一の“よいこと”でした。 |