大事な弟を 男に奪われてしまってはたまりません。
毎日 瞬王子のあとをついてまわっている氷河王子に、一輝王子は思い切り むかついていました。
ですから一輝王子は、何とかして氷河王子をエティオピアの王宮から追い出してしまおうと考え――けれど、すぐに その考えを改めたのです。
瞬王子にかけられた呪いは解きたい。
とはいえ、瞬王子に真実の愛を捧げる人物が 男なのは問題、女なのも問題。
ならばいっそ――と。

「ならば、いっそ、氷河に真実の愛を誓わせてみてはどうかと思うんだ。氷河が おまえにいかれているのは確実だし、それで おまえの呪いが解ければ万々歳。そのあとで、おまえが男だということを知った氷河が立ち去っても、誓った時は真実の愛だったんだし、おまえが また姫に戻ることはないかもしれない。もし姫に戻ったとしても、今と何も変わらないわけだし――これは試してみる価値があるぞ」
「変わります!」
100パーセント本気、けれど0.001パーセントの可能性に賭ける思いで一輝王子が口にした名案(?)は、瞬王子の鋭い声に遮られてしまいました。
瞬王子が切なげに眉根を寄せたのは、一輝王子に そんな卑劣なことを考えつかせてしまった原因が自分にあることが つらかったからだったでしょう。

「兄さん、なんてことを言うんです。それは氷河を騙すことでしょう。氷河を騙して傷付けるようなことはできません。それくらいなら、僕は永遠に呪いなんか解けなくてもいい」
「しかし、瞬……」
瞬王子の訴えは至極尤も。
けれど、この呪いは誰かを騙さずに解くことはできそうにない厄介なもの。
そして一輝王子は、(ここが重要な点ですが)瞬王子をとても愛していました。
瞬王子を幸せにするためになら、氷河王子の一人や二人を騙し傷付けることなど大した問題ではないと、一輝王子は思っていたのです。
別に命まで奪おうというのではないんですからね。
けれど瞬王子の考えは違っていました。
瞬王子は、自分のために誰かを騙したり傷付けたりするようなことはしたくなかったのです。

「そうは言うが……おまえは本当に一生このままでもいいのか」
「氷河を騙したり傷付けたりするよりましです!」
「瞬……」
一輝王子がなぜ そんな卑劣な策を思いついたのか、瞬王子にはわかっていました。
それは、一輝王子が 彼の弟を誰よりも愛しているから。
何よりもまず第一に、弟の幸福を願っているから。
お兄様の気持ちがわかるからこそ、瞬王子は悲しかったのです。

「兄さん、僕が こんなことになったのは兄さんのせいじゃないの。僕のために兄さんが卑劣漢になる必要はないんです」
自分を心から愛してくれている人がいることは、これ以上ないほど大きな幸福。
その人が自分のせいで苦しみ傷付いていることは、これ以上ないほど大きな不幸。
優しいお兄様の胸の中で、幸福で不幸な瞬王子は、あふれてくる涙を止めることができませんでした。






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