「なー、瞬。叶うと嬉しい おまえの夢って、どんな夢だったのか、俺にだけこっそり教えろよ」 命をかけた戦いを共に戦ってきた仲間に秘密を持つことになっても叶ってほしい瞬の夢。 星矢が、それが どんなものだったのかを瞬に直接尋ねるという暴挙(?)に出たのは、彼が 瞬への感謝の気持ちを示すホワイトデーのプレゼントを さっさと決めてしまいたいと思ったからでも、氷河より先に 正答に行き着いて氷河を出し抜いてやろうと考えたからでもなかった。 星矢は単に、一刻も早く “なぞなぞ”の答えを知って、すっきりしたかったのだ。 それ以外の いかなる理由もない――好奇心に突き動かされたのでもない。 まして、自力で謎を解いて瞬の夢を叶えてやった方が より効果的なホワイトデープレゼントになる――などという考えは、星矢の頭の中には毫もなかった。 喉の奥に魚の骨が引っかかっているような今の気分を解消したいという切実な欲求以外、何ひとつ。 星矢が自分の喉の具合いを案じているだけだという事実に気付いているのか いないのか、瞬があっさり、 「だめ」 と答えてくる。 瞬にしては けんもほろろな対応に、星矢は 改めて、その夢の実現を願う瞬の気持ちの強さを再認識することになったのである。 「その夢……そんなに叶ってほしい夢なのか?」 「うん」 「その夢が叶う可能性って どんだけあるんだよ」 「ゼロじゃないと思うけど……」 「ってことは、死人の生き返りやアンドロメダ島復活の線はなしか」 「え?」 「いや、何でもない。んじゃ、その夢、衣食住、どの分野の夢だ?」 「星矢……」 『教えられない』と言われた側から、屈託なく そんなことを訊いてくる星矢に、瞬はいっそ感心してしまったのである。 だから、教える気になるかというと、それはまた別の問題だったが。 「星矢、僕の夢を探り出そうとしてるね? 星矢のせいで 僕の夢が叶わなくなったら どうしてくれるの」 瞬は 僅かに口をとがらせてみせたのだが、星矢の不屈の闘志は そんなことで消散する やわなものではない。 もちろん、星矢は食い下がった。 「おまえはそう言うけどさ。おまえが おまえの夢の内容を教えてくれたら、俺だって、その実現のために力を貸せるかもしれないじゃないか」 「それは……星矢の気持ちは嬉しいけど、僕の夢の実現には、星矢の協力があってもなくても、あんまり影響はないんだよ」 「えーっ、それじゃ困るんだって!」 「困る? どうして?」 「あ、いや、それは その――」 まさか、ここで うまく瞬の機嫌をとっておかないと 女の子同伴レディース・バイキングに行けなくなるかもしれないから――などと、本当のことを言うわけにはいかない。 本当のことを言えば、瞬は自分が そんな悪事に加担させられていたことに、少なからず腹を立てるだろう。 しかし、言わずにいても結果は同じ――かもしれない。 進退両難。 答えに窮した星矢は、結局 、涙を呑んで引き下がるしかなかったのだった。 「瞬」 「叶うまで、絶対教えないって言ったでしょう!」 「なに?」 瞬の夢追求作戦を断念して、星矢が泣く泣く引き下がってから 約5分後。 そのつもりはなかったのだが、星矢が断念した作戦のあとを引き継いだ(ような形になった)のは某白鳥座の聖闘士だった。 名を呼んだ途端、振り向きざまに瞬に一喝され、氷河は大きく その目を見開くことになったのである。 自分が怒鳴りつけた相手が誰だったのかを知った瞬は、自分が怒声を浴びせかけた相手より更に大きく瞳を見開いて、慌てた様子を見せてきた。 「あ……ご……ごめんなさい、氷河。星矢が僕の夢を探りにきたのかと思って、つい……」 「おまえの夢、俺にも教えられないか」 「え?」 瞬は それが自分の夢の内容を探ろうとする星矢だと思って 断固とした拒絶の態度を示したのだろうが、詰まるところ、氷河の目的も星矢のそれと同じ。 瞬の一喝は、あながち間違ったものではなかったろう。 実に微妙な この事態に、瞬は困惑した様子を隠さなかった。 だが、瞬は、その困惑を振り切り、最後には氷河に対しても 左右に首を振ってきたのである。 「うん……。ごめんね、氷河」 瞬は申し訳なさそうな目で氷河を見詰め、ごく小さな声で そう答えてきた。 「おまえが謝る必要はない。おまえが言いたくないのなら、俺も無理に聞き出そうとは――」 瞬のために無理に笑顔を作りはしても、その実 氷河は、自分が星矢と同レベルの扱いを受けたことに、大いに消沈傷心していたのである。 だが、瞬が言いたくないというものを無理に聞き出すことはできない。 聞き出したくでも、その術がわからないし、その力もない。 結局、氷河も、ここは星矢同様 大人しく引き下がるしかなかったのだった。 |