guilty






二度と氷河には会わない。
瞬が その誓いを立てたのは、兄が死んだ時だった。
否、己れの身勝手で兄を死なせてしまった時だった。

瞬には、そんなつもりはなかったのである。
瞬は、あくまで 地上の平和を守るために戦っているつもりだった。
どの戦いの時も常に。
兄が命を落とすことになった その戦いの時にも もちろん。
瞬はただ、地上の平和を守るために共に戦っている仲間の一人を敵の攻撃から守ろうとしただけ。
危地に追い込まれていた氷河を、我が身を呈して庇おうとしただけ。
敵が 予想以上に強力な拳を放つことができ、その拳をまともに受けたら自分の命が危ういとアンドロメダ座の聖闘士が気付いた瞬間、瞬の兄が 無謀な戦いをしている弟を守るために、自らの命を敵の拳の前に投げ出しただけ。
ただそれだけのことだった。
ただそれだけのことが、取り返しのつかない事態を招いてしまったのである。

敵の拳を真正面から受け、そのまま地に倒れていく兄の姿を見ながら、瞬は呆然としていた。
それは、自分の姿であるはずだったのに、なぜ そうではないのだろう。
そう訝りながら。
時間が異様なほど長く感じられる。
瞬の兄は、懸命に重力に逆らうように ゆっくりと――恐ろしいほど長い時間をかけて、その場に倒れていった。
どさりと その全身が地に触れた途端、時間が元の速さで流れ出す。

「瞬、無事か」
横たわる兄の脇に膝をつき、乾いた瞳で、瞬は兄に頷いた。
「まったく……あんな阿呆のために……」
それが最期の言葉になるかもしれないのに、なぜ兄はそんなことを言うのだろう。
瞬は、そんな およそどうでもいいことを考えていた。
声もなく、兄弟の脇に立つ氷河。
思いがけない戦果に浮足立ち 油断していた敵を倒して、仲間たちの許に駆け寄ってきた星矢と紫龍。

「瞬、大丈夫か」
「星矢……紫龍……どうしよう……。兄さんが……兄さんが……」
今は、氷河の姿を見たくない。
まともなことを考えたくない。
何も考えずに済む方法はないかと考えて・・・、瞬は、こういう時のために人間には“泣き叫ぶ”という能力が備わっているのだということを知った。






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