瞬の心は そんなふうに、ひどく弱くなっていたのである。
だから、翌晩 その気配が再び自分の許にやってきてくれた時、瞬は ためらいらしい ためらいも見せずに、彼に身を任せた。
この人が氷河でないはずはないと、自分に言い聞かせて。
彼が もし氷河でなかったらと考えると ぞっとするのに、彼に触れてもらえないことに耐えられない。
また一人で 闇の中に取り残されることに耐えられない。
たった一日で百倍も大きくなってしまった不安に、自分は耐えることはできないと思ったから。

昨夜同様、焦らしているのか、ためらっているのか 判断できない不思議な調子の愛撫。
その長い愛撫の下で、彼は氷河なのか氷河ではないのかという不安と迷いは、瞬の心だけでなく 瞬の身体をも弱くし、熱く融かしていった。
「ああ……っ!」
氷河が・・・、瞬の中に入ってくる。
瞬に悲鳴をあげさせたのは、肉体が感じる痛みではなく、純粋な歓喜でもなく――やはり、不安だった。
自分は 氷河ではない人を我が身に受け入れてしまったのではないかという不安。
痛みを打ち消すほど大きな不安が、瞬の心身を あり得ないほどに乱れさせる。
アンドロメダ座の聖闘士にこんなことをしたいと思う人間は、氷河の他にはいないはず。
そう信じて、瞬は彼に しがみつき、激しい彼の律動に耐えた。
身体も心も ばらばらに砕け散ってしまいそうなほど 彼に揺さぶられ、身体の中を掻き乱され――それでも瞬は彼を離さなかった。
瞬には もはや、形ばかりの拒絶を示すことさえできなかった。

「あっ……あ……あっ……ああ……っ!」
氷河は、一度は彼を拒んだ恋人をまだ愛してくれている――まるで飢え渇いた獣が肉と水を欲するように凶暴に求めてくれている。
そう感じられることは、瞬の心と身体を狂喜させた。
「氷河……氷河……氷河……!」
自分に言い聞かせるように、瞬は いつまでも その人を『氷河』と呼び続けた。






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