「氷河はどうしたんだろう……」
世界の存続を脅かす脅威が、聖域側には いかなる損害を生むこともなく消えたというのに、一向に喜ぶ気配を見せず、敵の安否ばかりを気にしている瞬に、瞬の仲間たちは困惑しているようだった。
「いい人だったのに……。氷河は、自分以外の人には つらい運命を負わせたくないって言ってた。氷河は、ほんとは優しい人だったんだ。どこかで生き延びててくれたらいいのに……」
氷河が塵になって消えてしまったのだとは思いたくない。
だが、彼は 一人で生き続けることを望んでいなかった――。

憂い顔で そのことばかりを案じている瞬を持て余したらしい星矢が、
「まさか、おまえ、その大ぼら吹きに惚れたんじゃないだろうな」
などということを言ってきたのは、沈んだ顔の瞬の気持ちを 冗談で引き立ててやろうと考えてのことだったろう。
それで 瞬がますます暗い顔になってしまうとは、星矢は考えてもいなかったに違いない。
「そんなんじゃないよ……。そんなんじゃなく――ただ生きててほしいだけなの。氷河は、本心では絶対に、この世界が滅んでしまうことなんて望んでいなかった。ただ ちょっと寂しくて、やけになってただけだったんだ……」

世界の滅亡を企んでいた者たちを、アテナの聖闘士たちが駆けつける前に全滅させてしまったのは、いったい誰なのか。
邪神と その邪神にくみしていた者たちは、本当に全滅したのか。
アテナの聖闘士として考えるべきことは他にいくらでもあるというのに、朝から晩まで どこの馬の骨ともしれない吸血鬼の名ばかり呟いている瞬に、瞬の仲間たちは 最後には匙を投げてしまったようだった。






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